日本子守唄協会主催の「アジアの子守唄」―届け故郷の母の唄―を聞いた(3月4日・東京・内幸町ホール)。子守唄の会は西舘好子さんの岡倉天心の「アジアは一つ」であるという挨拶で始まった。出演の歌手・演奏者は日本人、在日韓国人、中国人、内モンゴル自治区生まれの人ありで多彩、唄も日本、朝鮮、カンボジア、インドネシア、インド、マレーシア、モンゴル、中国に及ぶ。
アジアには51ヵ国の国々がある。内戦、治安の悪化、災害の爪あと苛まれている国が少なくない。日本は中国とさらに韓国とは靖国問題、歴史認識をめぐり、しっくりいっていない。北朝鮮とは拉致、核兵器開発問題できわめて仲がよくない。「アジアは一つ」は明治36年その著「東洋の理想」の冒頭でアジア民族の文化的思想的共通性を述べた一節であった。その一年前に出した「東洋の目覚め」では相互に孤立し西欧列強に屈服するアジア人民に覚醒を促している。先哲の教えを子守唄を聞きながら人間の平和への歩みの遅遅たるを感じるばかりであった。
東南アジア4ヵ国の子守唄をハーモニカ演奏した高橋早都子さんは「いずれも温かく優しい調べです」と語る。しみじみと聞かせたのは在日韓国歌手、李順子さん(伴奏・梁久子さん)の「アリランメドレー」。全国に100以上の「アリラン、アリラン、アラリコ」の句をふくむものがある。韓国に「恨」(はん)という言葉がある。日本でいう「うらみ」とは違う。もっと根深く深く悲しいものだ。貧しくとも、しいたげられても生きる力を感じさせる「恨み」である。その「恨」が歌われているように思えてならない。哀調を帯びたメロデーが心を捉える。李さんの歌は絶唱であった。拍手が鳴り止まなかった。釜山で少年期を過ごした友人が酔えばこの歌を歌ったのを思い出す。日本でも昭和はじめから流行したと言うから日本人の琴線にも触れた曲であった。朝鮮民族の魂を歌ったといわれる「アリラン」を西舘好子さんはその国の子守唄だという。子守唄が貧困と汚らしさの中から生まれ、子供をあやす側の怨み悲しみが多く歌われているとすれば、「国の子守唄」の表現は言いえて妙である。
「民謡名人位」の斎藤京子さん(三味線・斎藤徳雄さん)の種子島の子守唄「よーかいよーかい」は声に張りがあって心地よく聞けた。ウリアナさんの古筝とボーカル「モンゴルの子守唄」は内モンゴルで昔からうたわれているという。馬に乗せるゆりかごもあるそうだ。李 広宏さんは蘇州生まれの45歳。唄を通じて「家族愛・人類愛そして世界の平和」
をテーマに日中の文化の架け橋になりたいと活躍中である。辻紅子さんのピアノ伴奏で中国の子守唄「揺籃曲」3曲をすき通るような声で歌う。出演者がみんな心を一つにして歌を歌った。現実はほど遠いかも知れないが、天心の理想に一歩づつ近づいていくよう努力しなければと思いながら会場を後にした。 |