花ある風景(231)
並木 徹
家政婦は何を見たのか
そのロケ現場を垣間見たのでテレ朝日の土曜ワイド劇場・特別企画「家政婦は見た!美貌の女帝とデバートの帝王」を期待した(3月4日午後9時)。2時間20分の番組を大いに楽しんだ。
柴英三郎君からいただいたシナリオの第一行に「歌う秋子」とある。家政婦、石崎秋子が歌うのはなんと作詞・小栗康平、曲・弦哲也の「いのちのありか」ではないか。数年前、小栗監督から年賀状代わりに贈られて来たのが都はるみが歌うこの曲であった。ドーナツ盤のCDに納められていた。秋子は静かにさりげなく口ずさむ。命の尊さ、永遠性を歌う。シャンソンのように心に染みる。今の市原にふさわしい唄かもしれない。寡作な小栗監督の映画「埋もれ木」は土深く埋蔵された木が持つ不思議な命を題材にしていた。
女帝、松川美津(賀来千香子)誕生パーティの模様は映像に見事に収まっていた。帝王、花山栄(愛川欣也)が奉加帳を叩き、バカヤロウを連発するシーンもある。美津が経営するエクセレント交易の商品のプレゼントと他の会社製品の贈り物をワゴンで区別させる場面は社長のワンマンぶりを象徴的に描き見事な演出である。私の関心事は花山社長解任劇である。山崎正彦弁護士(益岡徹)の多数派工作が成功して過半数の役員を取り込む。役員会で梅村豊代表取締・専務が「花山社長の社長と代表取締役の解任を提案いたします。賛成の方はご起立願いします」と発言して9人の役員が起立し、残りの3役員も隣の役員に腕をつかまれて立つ。
花山社長は「何故だ!」とかって流行したありふれた言葉などは吐かない。日本古来の罵声を使う。「バカヤロー、こんな議案は無い。議長は俺だ。俺の了解もなしに、こんな提案は無効だ!」
私は昭和8年8月に起きた毎日新聞のお家騒動「城戸元亮事件」を思い出す。城戸はやり手であった。他紙に連載中の中山介山の「大菩薩峠」を毎日(当時大毎)に持ってきたり部下の失敗をかぶったり人望もあった。それだけに敵も多かった。庶務部長に山田潤二という戦略家がいた。満鉄で秘書課長をやり法務部的知識と経験が豊かであった。反城戸の役員と社外役員による多数派工作を行い、臨時取締役会での城戸会長(社長・副社長制は廃止されていた)解任という案を考え、実行に移した。城戸の在任は僅か10カ月であった。東京と大阪で城戸とともに社を去った記者は58人を数えた。三越の岡田茂社長解任事件の50年も前の出来事であった。
ドラマに視聴者を引き込ませるのは美津の母、茂子(池内淳子)の存在であろう。美津の思いと違ってひたすら自殺した息子、武田政夫の復讐のため花山社長の失脚を狙う。異父の息子正夫は花山社長が仕入れ部長時代、その下の課長で、部長に業者との不正取引の罪をなすりつけられ死んだ。将来は社長と言われたほどのエリートであった。花山に目の敵にされた。
背任で検察の手が迫る中、美津は新事業を立ち上げるためミラノに出かけた際、花山社長がしたプロポーズを受ける意思表示する。
秋子「お母さまと旦那様の間でどんなに辛かったでしょう。お母さまのお気持ちはわかりますけど、娘を復讐の道具にすることに、ためらいはなかったのでしょうか」
茂子 「・・・」
秋子「火の国の女性は強いと聞いてますけど、恐ろしい執念を見せていただきました」
「いのちのありか」は実は恋の中だったり、強い執念の中にあったりする。家政婦、石崎秋子が探り出し、見たものはあまりにも対照的な「男に尽くす女心」と娘を犠牲にしてまで男を破滅に追い込まんとする「母心」であった。 |