競馬徒然草(51)
―いろいろな名前・「馬名」考(2)―
05年(平成17)の安田記念の優勝馬は、アサクサデンエン(牡6、河野厩舎)。デビュー24戦目にしてGT初出走でビッグタイトルを手に入れた。「アサクサデンエン」とはヘンな名前の馬だと思う人も少なくないだろうが、オーナーの田原源一郎さんが東京・浅草で商売(記章、旗などの製造、販売)をしていると知ると納得するようだ。
馬名の「アサクサ」は冠名で、40年近く競走馬を所有し、JRAの重賞3勝を挙げているが、GTはグレード制導入前も含めて初勝利。前走の京王杯SC(GU)を勝ったとき、「次はGTを!」と願ったようだ。安田記念優勝は念願叶ってのものだった。アサクサデンエンの馬名については、「ベートーベンの交響曲第6番『田園』と、昔懐かしい浅草の田園風景を掛けて名付けた」そうだ。そうと知ると、初めは「ヘンな名前」と思っていた人も、「いい名前」と考え直してくれるようだ。この馬主さんの場合、馬名
の頭に「アサクサ」が付く馬を何頭も持っているから、「アサクサ」というのは、いわば冠である。
法人馬主などの大馬主の馬には、馬名に冠がつく馬が多い。大馬主は持ち馬が多いから、冠をつけると分かりやすいのである。この傾向は以前から見られたが、始まりはいつ頃からだろうか。試みに過去のダービー優勝馬を見てみると、78年(昭和53)サクラショウリの名がある。文字通り「勝利」したわけで、「サクラ」の馬は以後も注目されることになった。ついでにいえば、88年(昭和63)のダービーでもサクラチヨノオーが優勝している。「サクラ」の馬の馬主は「(株)さくらコマース」で、その後も多くの活躍馬を出している。
これに劣らないのがシンボリ牧場の馬で、84年(昭和59)ダービーにシンボリルドルフ、翌85年ダービーにシリウスシンボリが優勝している。「シンボリ」の馬に、「皇帝」の名をつけた時期でもあった。頭数の多い大馬主ほど馬名を考えるのも大変らしく、
「今年は川の名前でいこう」というようなことがあったようだ。これなどは、いわば「川」シリーズともいうべきもので、「シリーズもの」の始まりといえるだろう。このように「シリーズ」として考えるのは、確かに1つの方法であり、最近でも見ることができる。
例えば、「シゲル」の冠で知られる森中さんの2歳馬には、冠の後に株式用語をつけたシリーズがある。「シゲルシテセン」(仕手戦)、「シゲルユウボウカブ」(有望株)その他計8頭。内1頭「シゲルフドウカブ」(不動株)は早くも新馬勝ちを飾った。この「シリーズ」の他の馬の今後はどうだろうか。 (
新倉 弘人) |