競馬徒然草(25)
―名義貸し事件―
一般社会では、毎日のようにさまざまな事件が起きる。幸いにも競馬の世界では、大した事件というほどのこともない。と思っていたら、「名義貸し」なるものが起きた。明るみに出たのは、先月のことだ。JRAの発表は、次のようなものだ。7月28日、競馬施行規定で禁止されている「名義貸し」を防止する責務を怠ったとして、美浦・土田稔調教師(49)を7月29日から10月28日まで3カ月間の調教停止の処分。東京馬主協会所属の馬主・杉田勝二氏(64)は戒告処分。この処分により、土田厩舎の管理馬38頭は、翌日の29日付で美浦・大久保洋吉厩舎に転厩。厩舎は3カ月間、休業状態になるのだから、処分は厳しい。
この「名義貸し」事件のあらましは、ざっと次のようなものだ。
JRAによると、杉田氏はJRAに馬主登録のない第3者の所有馬であるフレイア(牝3)を、頼まれて自分の名義で土田調教師に預託し、今年4月29日に競走馬登録をしようとした。土田調教師は不審に思いながらも同馬の預託を引き受け、競走馬登録申請をした。その提出された書類を審査していたところ、名義貸しが発覚したというもの。JRAは「土田調教師が馬主に対しても、名義貸しを勧めていると受けとられかねない言動もあった」という。このため、7月20日に開かれた裁定委員会で、競馬施行規定第126条第1号および第19号の「名義貸し」に該当するとして、制裁が決まった。
一方、名義貸しに対する馬主の制裁は、その馬を登録、出走させていた場合、馬主の資格を剥奪される。今回の場合は、まだ出走していなかった(つまり未遂)ために、杉田氏は馬主の資格を剥奪されず、戒告で済んだ。しかし、土田調教師に関しては、調教停止期間中、美浦トレーニングセンターの厩舎エリアの立ち入り禁止となる。さらに今後、厩舎貸し付け委員会で馬房削減などの処分も考えられる。各厩舎とも活躍馬を出して、馬房数を増やしたいところだけに、逆に削減ともなれば厳しい。
なお、過去の名義貸しは、73年以来、19件ある。最も多かったのは95年で、9件。最近は97年以来なかったが、今回は7年ぶり。名義貸しは、後を絶たないようだ。ところで、今回の事件を機に、日常生活の上でも、「名義貸し」問題に思いを寄せた人も少なくないだろう。とんでもない危険がひそんでいるかもしれないので、心したい。「名義貸し」の問題は、競馬の世界だけのことではない。そのことを今回の事件が示唆している。 (
新倉 弘人) |