2004年(平成16年)6月10日号

No.254

銀座一丁目新聞

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安全地帯(78)

−信濃太郎−

内部告発は保護法に頼るな
 

 内部告発保護法ができる。内部告発者にはまだ不利な点が多いらしい。余り贅沢を言わないことだ。もともと企業内部での不正を見逃すことができなくて外部へ告発する。正義感に燃えて、自分を抑えきれなくて良心の命ずるままに行動に出るわけだから、内部から悪口を言われ、批判されても仕方あるまい。非を認めて『よく言ってくれた』と誉めてくれる企業トップがいればこれにこしたことはない。最悪の場合は解雇を覚悟せねばなるまい。法案に刑事責任を免除する規定が盛り込まれなかったから、逮捕される場合もでてくる。その勇気と覚悟なくしては内部告発はできない。
 戦後、内部告発を進めたのは公害防止運動の推進者、アメリカのラルフネイダーである。「ホイッスルブロアー」(口笛を吹く人)といい、公害をたれながす企業主がおれば、人々に口笛を吹くように警告して欲しいと訴えた。
昭和31年に表面化した熊本の水俣公害は水銀禍に悩む漁民がいち早く内部告発しておれば被害は少なくてすんだはずである。チッソ水俣工場によって町の生活が支えられていたから容易に告発できなかった。告発すれば村八分にされかねない事情があった。
 内部告発は密告とは異なる。密告は自分が助かるために人を陥れようとして罪を告げ口し、人をあしざまにいうのである。意外と日本人は密告好きである。BC級戦犯の取材にあった岩川隆さんは米軍調査官の「こんなに密告や裏切りが多い国民を見たことがない」という話を紹介している。日本人として心すべきである。
 昨今の企業のモラルの低下は酷い。産地のラベルの張り替え、製造欠陥からくるタイヤの脱落事故隠しなど枚挙にいとまがない。内部告発の必要性が強調される。保護法は内部告発を妨げるものではなく、むしろ奨励するものとして受け取るべきである。

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