花ある風景(147)
並木 徹
検証報道をすすめよ
今年の新聞大会(10月15、16の両日・熊本)のパネルディスカションのテーマは『今日の新聞 明日の読者』であった。パネりストは国分俊英共同通信編集局長、朝比奈豊毎日新聞編集局長、塩越隆雄東奥日報取締役編集局長、田川憲生熊本日日新聞取締役編集局長、 司会は小林泰宏常務取締役。
新聞の使命である報道、解説、評論を果たすのに奇策はないと思う。時代が激動するとき、この三つの機能を十分に果たすのは容易ではない。取材の原理原則を忠実に守るのが一番大切である。迷ったら原点に立ち返ることである。しばしば問題になる「ニュースとは何か」についても「社会の人々が興味を持ち、重要な事柄が限られた紙面に見出す事ができるもの」とアメリカのジャーナリズムで定着している定義を素直に受け取ればよい。「社会の人々が持つ興味」を投書、インターネットを利用した双方向で知ることができる(塩越発言)。
インターネットによる特種さえ生まれている。特種は紙面に活気をもたらす(国分発言)。テレビの出現以来新聞の速報性は揺らいでいる。特種といっても多くの読者にしてみれば僅かな時間差に過ぎない。しかしその後の展開を見れば、特種を報じた新聞が解説、評論、企画記事でも一歩先んじる事ができる。新聞は10年程前から署名記事が増えだした。
「署名は記者の視点と努力が問われる」(朝比奈発言)というように記事の質を高めるのに役立っている。だが署名記事でありながら誤報の例もないではないので、取材力と分析力を高める工夫をすべきだろう。
「検証報道を大事にしていきたい」(国分発言)といっている。大切な新聞の機能である。毎日新聞はすでに27年前から「追跡取材」と称して行ってきている。神奈川県相模原市で二歳の女の児がポットのお湯を口で吸ったため死ぬ事故があった(昭和51年3月6日)。昔ならコタツの上に熱湯の入ったヤカンを置く親はいない。ポットだから安全と思いおくのである。追跡取材の結果二つの事がわかった。一つは押さねばでないポットでも吸えば出るということ。もう一つは大人なら熱湯を吐き出す事ができるが幼児は吐き出せないということである。小さな「文明の利器の死角」であった。事故が起きてから4日後社会面のトップで報道した。これを教訓にしてメーカーが口で吸ってもでないようにロックを取り付けた。これは検証報道のはしりであった。第一報の足らざるを補い、新しい事実を掘り起こし、間違えがあれば訂正する機能を果たした。先人が開拓した追跡取材にプラスアルファをつけて発展させねばならぬ。その努力をして欲しい。 |