2003年(平成15年)8月10日号

No.224

銀座一丁目新聞

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茶説

イラク戦争は軍事革命である

牧念人 悠々

 同台経済懇話会の特別シンポジウム「イラク作戦研究」−軍事革命の実態をみるーに出席した(8月1日・アルカディア市ヶ谷)。報告・討論者は岡本智宏さん(元統幕会議事務局長・空将・防 大11期)富沢 さん(元陸上幕僚長・陸將・防大4期)中村好寿さん(元防衛研究所研究員・1陸佐・防大9期)古沢忠彦さん(元横須賀地方総監・海将・防大8期)。今、日本でイラク戦争を軍事面から分析、総合的に語るとすればこの4人ほど適任者はいない。「イラク戦争」がよく理解できた。
情報革命によって21世紀の戦争は全く新しい戦いの形態や性格を帯びるようになった。それを如実に示したのが「イラク戦争」であった。新聞も「情報とハイテクに支えられた『新しい戦争形態』を確立した」と表現した(4月7日産経新聞)。つまりサダム・フセイン政権首脳やイラク軍部隊の攻撃対象を綿密に絞り込んで行う限定空爆とインフラや民間施設への被害を極力さけることを主眼とした。これを可能にしたのが進歩したハイテク技術である。
 「軍事革命」とはこれまでの双方が国力全体を消耗しあう戦争形態ではない。相手の神経中枢に打撃を与えて敵の戦意を喪失させるものである。今回アメリカは戦争早々にこれを実行に移した。アメリカ軍は3月20日夜、バクダッド空爆作戦を始める予定であった。それを繰り上げて20日午前5時半(現地時間)攻撃を開始した。これは直接サダム・フセインの首を上げるためであった。「3月19日の夜、フセインはバクダッドの住宅街にある民家の地下壕 に泊まる」という情報がCIAに寄せられたからである。ブッシュ大統領はゴーサインを出した。F117ステルス戦闘機2機が出動、バンカーバスター(900キロのMK84地中貫通弾)が投下された後、フセインの位置情報がセットされた巡航ミサイルが40発撃ち込まれた。結果的には失敗したが、成功しておれば、中枢機能がマヒすることによって、短時日でイラク戦争は終わっていたであろう。情報化社会における戦争では軍隊の撃破ではなく、非軍事目標を攻撃して相手国の国家機能を麻痺させる事が追及される(中村好寿著「軍事革命(RMA)」)。しかしこの奇襲的攻撃はイラクの政府首脳や軍幹部に「畏怖と衝撃」を与えたようである。さらに、CIAはイラク軍首脳のメールアドレスや自宅の電話に警告のメッセージを何度も送った。「諦めろ。この戦争は負け戦だ。協力すれば命は助ける」(「ニューズウイーク」日本語版4月2日号)。このようなピンポ イント爆撃と心理作戦が行われた状況下であれば、米軍がバクダッドに突入したとき、抵抗らしき抵抗を受けず、閣僚達がいずれかに逃げてしまい、無政府状態に陥った理由がよくわかる。
 注目すべきは指揮・統制・通信・情報の兵器システムと精密誘導兵器システムの威力であった。偵察衛星、衛星位置測定システム(GPS)、統合地上攻撃目標監視レーダー機(JSTARS)、空中警戒管制機(AWACS)などが活躍した。このため、イラク軍の戦力 が20パーセントに落ち込んでしまったという。
 アメリカは軍事衛星など24個を宇宙にあげている。今後3年間で60兆円で宇宙ネットワークを構築しようとしている。ロシアは9個、中国は2個に過ぎない。圧倒的にアメリカは宇宙をコントロールしている。電子戦争でアメリカにかなうものはどこもない。そのアメリカが同盟国日本に期待しているものは1、基地 2、人間情報 3、治安の悪いところでも出動できる軍隊だという(富沢発言)。「戦争は他の手段をもってする国家政策の継続にほかならない」(クラウゼウィッツ)というが、「戦争は政策である」とつくづく思う。その時の政治の流れが大きく影響する。この視点を忘れてはなるまい。

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