2002年(平成14年)2月1日号

No.169

銀座一丁目新聞

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追悼録(84)

 世田谷一家殺害事件(平成12年12月31日)は起きてから一年が過ぎた。この事件はみょうに頭からはなれない。宮沢みきおさん(44)、妻の泰子さん(41)のほか長女にいなちゃん(8)と長男礼君(6)の子供二人まで巻き添えにしているからであろう。また、遺留品がたくさんあるのに、何故犯人が捕まらないのかというもどかしさもある。
 毎日新聞時代、キャップをふくめて警視庁記者クラブ(七社会会)に5年半も在籍、ころし(殺人)たたき(強盗)などを数多く扱ってきただけに、事件が解決しないのは、ひとごとではない。
 かって、鑑識の神様といわれた岩田政義さん(故人)が『現場に残された遺留品には甲乙はない』と言っていたことを思い出す。その例として、運転手殺しの犯人が捕まり、指紋を対照させたところ、対照不能として捨てられいた掌紋がぴたりと符合した事件をあげる。
 現場の資料は宝ものである。『物(ぶつ)から物(もの)を聞け』ともいう。現場の物は犯人を指差している。早く犯人を挙げてくれとさへ訴えている。この事件では、世田谷に土地勘がある、血液型はA型、20代から30代の大柄の若い男、右手に怪我をしている(いまは傷跡として残っている)。パソコンができる。劇団四季のファンである(演劇ファンかもしれない)。変質者であることなどがわかる(解剖の結果、3人は死んだあとも刺されたと見られる刺し傷のあとがある)。
 事件記者は、事件がおきると、その筋を読む。物取りか、怨恨か、痴情かなどと判断する。ベテラン記者ほどよくあたる。ところが、最近の事件は動機がさまざまで、判断しにくい。この事件も難しい。
あえて推理すると、犯人は単独犯で、変質者。犯行は流しに近い。はじめから宮沢さんを狙ったものではないのではないか。だから、捜査はきわめて困難である。このような事件ほど何年かかろうとも解決してほしい。「天網恢恢疎にしてもらさず」。小さい端緒から意外にもナゾが解けるかもしれない。

(柳 路夫)

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