2001年(平成13年)12月20日号

No.165

銀座一丁目新聞

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お耳を拝借(34)

-自分探し

芹澤 かずこ

 

 ―― 平成2年もあと3日で終ろうとしている。1991年の幕開け。21世紀まであと10年。10年後の私は何をしているのだろうか。
 若い頃は10年先、20年先が必ずやってくると思っていた。死の灰が降ろうが、地震が起ころうが、それは自分には関わりのないことだと、当たり前のように思っていた。
 ところが、3年前に夫を51歳の若さで亡くしたときから、1年先、否、1ヶ月先のことさえ何も“確かなもの”などないのだと思うようになった。
 だからといって勝手気ままに生きようなどとは思わない。女性の平均寿命は八十余才というから、私もあと30年は生きられる計算になる。明日をも知れないからと、無計画に過ごしていたのでは、童話のキリギリスのような惨めな老後を送らなければならない。
 これからの10年は生活の基盤をつくり、21世紀になったら、こんどは自分のやりたいことを存分にしたいと思っている。それまでに、自分のやりたい『何か』を探さなければならない――。


 10年前の私は、こんな文章を綴っている。この通りなら既に『何か』を探しあて、次のステップに進んでいる筈である。ところが、現実の私はどうだろう、まだ何も探せず、右往左往しているにすぎない。
 この間に私の周囲では、地域の友人と資金を出し合い、24時間対応のパーソナルケアサービスを開設した人。仕事を続けながら温熱治療の講習に通い、国家試験を通って治療師の資格を取った人など、着々と自分の道を歩み始めた人たちがいる。

 それにしても10年はあっという間だった。早かったということは、何事もなく順調に過ごせた、ということであり、健康で、まだ仕事を続けていられる、ということも喜ばしいことと言えるだろう。だからこそ今のうちに、生涯打ち込める『何か』を探したいと思っている。
そんな折、西舘好子さん(元・こまつ座・みなと座主宰)から「ふれあい倶楽部」を紹介された。
 “いかに元気に、生きがいを持って、豊かに暮らしていくか”をテーマに設立されたもので、業・遊・学・愛の4つのキーワードを柱として、熟年や女性がもっと有意義に、もっと輝く毎日を過ごすための交流・参加型の倶楽部と銘打っている。

業は、退職や子育てのためにやむなく家庭に入った人の能力を活かす場探し。
遊は、イベントの企画や知的サークル活動。
学は、セミナーや講習会。
愛は、チャリティーやボランティア活動。

 毎月、東洋医学とか、心理学とか、男の料理とか、俳句やお能や歌舞伎の講座、個人的なサークルでは健康麻雀、旅行会、ボイストレニングなどなどイベントや講習会の案内が送られてくる。参加するばかりでなく、自分の特技や資格を生かして自らの教室を持って教える側になることも可能。
 平日の集まりが多いので、仕事と重なってなかなか出掛けて行けないが、興味ある集まりが多いので、折り合いをつけて参加し、その中から探している『何か』を見つけられたら、と期待している。

 12月の初旬、夫の弟弟子・田中寅彦8段の母堂が87歳で亡くなられた。通夜の席で若い頃の写真を拝見したが、モダンでハイカラでまるで映画女優のプロマイドのようであった。5年前まで多摩の方でヨガの指導をしていたそうで、そのころのお弟子さんの思い出話によると、お洒落で外出の時はつばの広い帽子を格好よく被って、それがまたとてもよく似合っていたとか。最後の最後までお一人で自分の身の回りのことをきちんとされていたとも伺った。何よりお手本にしたい生き方である。



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