花ある風景(69)
並木 徹
浜野佐知監督の映画「百合祭」は面白かった。「私以外に誰が老女の性を扱えますか」というだけあって、老女の性を素敵に描いている。人はいくつになっても、エロスを楽しめばいい。
本紙でも少女と遊んだ裁判官に同情的な一文を紹介した。(平成13年6月1日号 茶説)その際、「ああ若葉ああ若葉かな老いの恋」を出だしに使った。性のあこがれは、男であれ女であれ、灰になるまであると説いた。
それにもかかわらず、「いいとしをして」とか「いやらしい」ということで多くの人が本音を押さえこんでいる。この映画は三好輝治郎・75歳(ミッキーカーチス)を巡って7人の女性(69歳から91歳)が女たちの性エネルギーを再起動する。さらに別のかたちの愛へと発展する。見ていて楽しい。
浜野さんは三好役の俳優探しに苦労したらしい。これはと思う男優には女性をひきつける色気がなかった。脚本の山崎邦紀が推薦したのが、ミュージシャンのミッキーカーチスであった。「身についてでてくる色気」があった。原作者の桃谷方子さんは「プレイボーイ的な色気としょぼくれた感じがよくでていた」といっている。
ここで「風姿花伝」の言葉「花無くては、萎れ所無益なり。花の萎れたらんこそ、おもしろけれ」を思い出した。渡辺淳一著「秘すれば花」(サンマーク出版)によれば、萎れたる風情は花があってこその風情である。これは稽古を多少多くやったくらいで、現れてくるものではない。「花」を極めたものだけに自ずとあらわてくるものであるという。62歳のミッキーカーチスが見事に三好役を演じている。
花といえば、宮野理恵役(73歳)の吉行和子の存在は大きい。浜野監督がその出演を望んだだけに、この映画のキーウーメンの役割を果たしている。SEXシーンもさらりとしており、それが逆に効果を上げていたように感じた。
それにしても、三好の口説きはうまい。91歳の北川よし(大方斐紗子)には「猫を抱いている北川さんはキリストを抱くマリアさまのようだ。まさにイコン画そのものだねぇ」宮野には「笑顔がいいねぇ。菩薩さまのようだねぇ」などと言って迫る。今の日本の70歳台の男性でこのような表現を使えるのはきわめて少ない。しかも女性の平均寿命が84.62と男性の77.64よりも高い。その意味では日本の女性は不幸である。
この映画は、評判になる。予想外の観客動員も出来るような気がする。前作の「尾崎翠を探して」の借金も残っているそうだが、この作品で解消できるであろうことを期待する。
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