「座右の銘」を広辞苑で引くと「常に身近に供えて朝夕の戒めとする格言」とあり、「格言」とは「深い経験を踏まえ、簡潔に表現した戒めの言葉、金言」とある。簡潔に表現した言葉、とあるから次の二つは「座右の銘」としては相当しないかも知れないが、常に身近にあって目に触れているものである。
我が家でいちばん目につきやすい洗面所の壁に、以前からさりげなく「日常の五心」が書いてある一枚の紙を貼っている。
「ハイ」という素直な心
「ありがとう」という感謝の心
「すみません」という反省の心
「私がします」という奉仕の心
「お陰さまで」という謙虚な心
鎌倉を散策した折に、通称「ぼたもち寺」で貰ってきたもので、もう何年にもなるので紙の色は変色しているが、中味は何年経っても色褪せることはない。家の者にも取り立てて読みなさいとか、こうしなさいとは言わなくても、自然に目に触れることによって知らず知らずに浸透するのではないか、というのを密かな狙いとしていた。
その狙い目どおり、ある時次男がノートに書き付けているのを見たし、字が読めるようになると、孫までが読むようになった。妹の会社では朝礼に、これを皆で斉唱するのだとか。
もう一つは、両国の亀命堂薬局で貰った湯のみ茶碗に書いてある「健康十訓」である。
1、 少肉多菜 肉を少なく野菜を多く
2、 少塩多酢 塩類を少なく酢を多く
3、 少糖多果 砂糖を少なく果物を多く
4、 少食多噛 少なく食べてよく噛む
5、 少衣多浴 なるべく薄着でよく風呂にはいる
6、 少言多行 おしゃべりを慎んで多くを実行する
7、 少欲多施 欲望をひかえ施しを多く
8、 少憂多眠 くよくよせずよく眠る
9、 少車多歩 車にのらずよく歩く
10、 少憤多笑 あまり怒らずよく笑う
この十ヵ条は、普段の健康を維持するうえにも、かくあるべきと思うものばかりであるけれど、野菜の好き嫌いがあって、おしゃべりで、買い物が好きで、あまり歩かないとあっては、守るには前途多難であるけれど、せいぜいお茶を飲むたびに心して自分を戒めることにしよう。
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