2005年(平成17年)2月10日号

No.278

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安全地帯(100)

信濃 太郎

 新幹線30秒の優しさかな

 乗り違えた受験生に配慮して新幹線が宇都宮駅に臨時停車、受験生が無事試験に間に合う出来事があった。2月2日受験生は東北学院大経済学部の地方試験会場のある福島県郡山市に向うため福島駅午前8時18分発の「Maxやまびこ104号」に乗った。だが、乗車後郡山駅に停車しないことに気がついた。「Maxやまびこ104号」は郡山、新白河、那須塩原、宇都宮、小山を通過して大宮にしか停車ない(午前9時21分大宮着)。大宮で下車して下りの新幹線に乗り換えては(午前9時34分発「Maxやまびこ185号に乗ったとしても郡山着は10時41分)試験開始時刻の10時30分には間にあわない。思い余って車掌に相談した。JR東日本でははじめ断ったものの受験生の心情を考えれば、『受験生の為に列車を止める』のは前例がなとはいえ、何とかしてやりたいと思うのが人情というもの。後続の列車は福島を「Maxやまびこ104号」より18分遅れて発車した「やまびこ44号」である。余裕がある。そこで宇都宮駅に臨時停車を決めた。乗客には事前に車内放送してその旨連絡したという。受験生は9時8分発の下り「やまびこ45号」にかろうじて乗車した。時間的には30秒もなかったのであろう。郡山には9時46分着いた。朝日新聞の見出しは『新幹線30秒の優しさ』とあった。
 禅宗にこんな譬えがある。卵の中にいる雛が自力で外に出れないでいると親鳥と雛が力を合わせて殻を突き破るという。この場合は師弟のふれあいを指しているそうだが、受験生と車掌(新幹線運転司令室)との懸命のふれあいを感じる。人間はミスを犯す。そのときどうするかはその人の器量による。相談した人に恵まれると良い結果が生まれる。受験生が時間的に余裕を持って家を出たのも幸したといえよう。JR東日本では『今回は特例中の特例。受験生も乗車する前にしっかりと停車駅を確認して欲しい』といっている。毎日新聞の見出しは『受験生殿 停車駅は「必須科目」です』であった。JR東日本の粋な計らいは受験生に人間は一人だけでは生きられず、多くの人々に支えられて生きていることを教えたと思う。私の見出しは「新幹線 臨時停車で生きる道示す」である。

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