2004年(平成16年)4月20日号

No.249

銀座一丁目新聞

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競馬徒然草(12)

―オカシナヤツ― 

  奇人・変人は政治家にもいるくらいだから、その類が馬にいても、おかしくない。気性や性格はもちろんだが、そもそも名前からして変なのがいる。例えば、「オカシナヤツ」という名の馬などがそうである。以前と違って、最近は変わった名前の馬が多いが、それらの中でも、極め付きだろう。まだ1勝もできずにいる。このままでいくと、中央の競馬場で出走できなくなる。春競馬以後、「未勝利クラス」のレースがなくなるからだ。そうなると、舞台を地方に求めるしかないが、やがてはファンからも忘れられていくだろう。もっとも、「珍名・奇名」の類としては、記録に残るかもしれない。ところで、この馬、以前は別の名前だった。名前を変えたのだ。では、それは何という名前だったか? 余程の競馬通でも、即答は出来まい。
 実は、以前の名は「アラシヲヨブオトコ」だった。映画の題名から付けたのだろうが、こちらのほうが遥かに強そうな名前だ。それをなぜ、変な名前に変えたのか。ヒマを見つけて、いろいろと想像してみた。例えば、実際には「嵐を呼ぶ」ほどの馬ではなかったからだろう。あるいは、走らないために、「名前負け」と判断したのかもしれない。といったような推測である。だが、心機一転のつもりなら、ほかにも付けようがあるだろう。期待を裏切ってばかりいるから、馬主もサジを投げたのだろうか。
 ところが、実際は違った。気が荒くてしようがないので、去勢して「せん馬」にしたからだという。つまり「牡馬」ではなくなったのだから、名前からも「オトコ」を取り除く必要があったというわけだ。名前を変える理由は納得できる。それにしても、「オカシナヤツ」と変えたのは、どういう意図なのだろうか。馬主もサジを投げるほど、不可解な馬ということだろうか。
 ついでに「せん馬」について触れる。荒い気性がおとなしくなる利点はあるが、仮に活躍しても、種牡馬にはなれない。それと関連していえば、皐月賞、ダービー、天皇賞(春・秋)、有馬記念の5大クラシックには、出走する資格がない。出走規定に定められている。昔は馬匹去勢法という法律があり、軍馬などは多くが去勢されていた。戦争行くのだから、余分なモノは要らないと考えられたのだろう。今は平和な時代で、「せん馬」も少ないが、「オカシナヤツ」は、その1頭である。もちろん「せん馬」にも強い馬はいるから、今後勝てないとはいえない。だが、仮に勝った場合でも、「オカシナヤツ」といわれるわけで、馬の心境にも複雑なものがあるだろう。

( 新倉 弘人)

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