1999年(平成11年)3月1日

No.67

銀座一丁目新聞

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映画紹介

バンディッツ 
otake.jpg (8731 バイト)大竹 洋子

監 督 カーチャ・フォン・ガルニエ
脚 本 ウーヴェ・ヴィルヘルム、カーチャ・フォン・ガルニエ
撮 影 トルスタン・ブロイアー
音 楽 ペーター・ヴァイエ、ウド・アーント、
フォルカー・グリッペンシュトロー
配 給 シティ出版
出 演

カーチャ・リーマン、ヤスミン・タバタバイ、
ニコレッテ・クレビッツ、ユッタ・ホフマン、
ヴェルナー・シュライヤーほか

1997年/ドイツ映画/カラー/ドルビーデジタル/109

 昨年11月の第11回国際女性映画週間が上映した13本の作品のなかで、いちばん人気が高かったのがドイツの女性監督、カーチャ・フォン・ガルニエの「バンディッツ」だった。バンディッツというのは、刑務所で結成された4人の女性のロック・バンド名である。バンディッツ、ならず者、彼女たちは自分たちの意思でそう名づけた。

 エマ、ルナ、エンジェル、そしてマリーは、それぞれの事情をかかえながら刑務所暮らしを余儀なくされている。性格も年齢も罪状もばらばらである。しかし音楽に打ちこむことによって、辛うじてあやうい日常のバランスを支えあっている。

 ある日、彼女たちに思いがけない転機が訪れた。警察が主催するパーティーで演奏するために乗せられた、護送車からの脱走に成功したのである。そして逃亡の途次で、“バンディッツ”はマスコミやレコード会社の策略によってどんどん人気を高めてゆく。執拗に追う捜査官をふりきりながら、4人の友情と連帯の絆は強まり、演奏の腕前はめきめき上達する。だが彼女たちがたどる悲劇への坂道は、すでに目の前にあった。

 映画全体にちりばめられる音楽の数々、美人ぞろいのメンバーとハンサムな人質、MTV風のカットが頻繁につかわれ、繰り返し、繰り返される挿入シーンが、追われる者の緊迫感と音楽がもたらす幸福感をもりあげて、スクリーンの中で熱狂する聴衆と、映画の観客をつないでゆく。“女の友情はもろくない”がこの作品のキャッチ・コピーであり、若者をターゲットに青春音楽映画としての宣伝が、今さかんに行われている。しかし、ここにこめられたメッセージは、さらに深く切実である。

 4人が脱走するきっかけになったのは、男性護送官の女性蔑視とセクハラである。そのしつこさ、あくどさにルナの堪忍袋の緒が切れる。ルナはその男を車外に突き落とし、結果的に轢き殺してしまう。この顛末は、観客に彼女たちの逃亡の必然性を納得させる。私の友人などは、「もうあれだけで充分ですよね、あれがこの映画のテーマの一つですね」と怒りをあらわにいった。

 リーダー格のエマは確信犯である。音楽活動と私生活の両方のパートナーだった男は、自分に従わないエマに暴力をふるい、エマは胎児を失った。エマは冷静に銃の引き金をひいたのだ。エマがいつも首から放さないペンダントの中身は、胎児の写真だったことが後になってわかる。

 テレビ局やレコード会社の売らんかなの商法も相当なものである。そして、それを逆手にとる4人組のしたたかさには、快哉を叫びたくなる。中年で病弱なマリーのやさしさと、エンジェルの無邪気な企み。やがてマリーは死に、残された3人の結びつきは一層強まるが、死の影はじょじょに彼女たちをおおい、覚悟のラストコンサートが行われる――。

 これが長編劇映画の2作目になるガルニエ監督は1966年生まれ。キラキラ光るような才能の持主であると同時に、ブラッド・ピットをボーイフレンドにしていたこともある大変美しい女性である。向かうところ敵なしのようなこの女性監督が、女性の仲間と力を合わせて作った女性のための映画「バンディッツ」は、女性の味方は女性であることを明快に打ちだす。

 この文章を書いている最中に、第10回夕張映画祭のヤングファンタスッティック部門で、「バンディッツ」がグランプリに選ばれたというニュースをきいた。審査員長であるアメリカの女優レスリー・キャロンは、「バンディッツ」が女性監督の作品だということがうれしいと、のべたという。わが意を得た思いである。

313日から、渋谷SPACE  PART303-3477-5905)と新宿ピカデリー3(03-3356-3614で上映



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