2000年(平成12年)8月10日号

No.116

銀座一丁目新聞

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横浜便り(10)

分須 朗子

 「夏の日」昼下がり、鎌倉の若宮大路を歩いていた。
呉服屋さんのフリーマーケットで、「浴衣1000円」を見つけた。
軒先の段ボール箱に造作無く積まれた浴衣。

 すでに、浴衣寝巻を数枚持っている。スーパーで買ったもので、「お寝巻」という名前がついている。ガーゼ地が素肌に柔らかくて気持ちいい。たまに、病院で入院患者が着用しているのを見たことがあるが、確かに、部屋で「お寝巻」を身にまとっていると、ちょっと気だるくなったりするから、不思議。

 つまり、私は、浴衣好き。「浴衣1000円」を買わない手はない。
明治大正時代の庶民が普段着にしていたような地味柄の中から、どれにしようかセレクトするのは楽しい時間、とっても。
厳選された一品は、白地の全身いっぱいに藍色の梅の枝が縦に並んでいる。
ついでに「帯1000円」も買った。帯はやまぶき色。きれいで陽気。

 家に帰って、着てみる。帯も締める。
しっかりとした感触に、ガーゼ地のお寝巻とはまったく違う気分。
ダラリとゴロ寝するわけにはいかない感じだ。
何かしたくなった。

 先日買った押し寿司の木型を出した。
この夏の土用の丑(7/30)にうなぎの押し寿司を作ろうと思いついて買った。
夕刻、うなぎを買いに出た。(浴衣は脱いだ)
木型の中に酢飯と蒲焼きと山椒を重ねて押すだけなのだが、押す力が要るので、ずいぶん体力を消耗する。(浴衣は着なかった)
押し寿司ができた時には、ぐったり。(浴衣を着る気力失せる)

 風鈴を窓枠に吊してみた。
何かのおまけでもらった風鈴だったから、カラカラと、音の感じが安っぽい。
ところで、ある外国人向け日本事典を見ると、風鈴は、エアーコンディショナー(冷房)の頁に記載されている。音に涼む、という説明に、いたく感動。
 風鈴市へ出向いて、風鈴を一つ選びたい気がした。
週末の川崎大師の風鈴市には行けそうにない。風鈴をどこで買おうかと考えた。
 銀座がいい。そういえば、しゃらんしゃらんと風鈴をあれこれ肩の竹竿に提げて、通りを練り歩く風鈴屋さんがいる。
浴衣を着て銀座へ風鈴を買いに行くことを想像した。愉快。

 せっかくだから、もう一度、買ったばかりの浴衣を着た。
熱い紅茶を一杯だけ飲んで、浴衣を仕舞った。

 湯かたびらも、押し寿司も、銀座の風鈴も、一人じゃつまんないと思った。「夏の日」



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