2000年(平成12年)5月1日号

No.106

銀座一丁目新聞

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横浜便り(7)

分須 朗子

 古典の中で、花という語は、「桜の花」の代名詞として使われた。
 
 華やぐという言葉を口にするとき、桜の花々を思い出す。 
淡く白い微かな花びらたちが、枝枝に重なり合って、にぎやかに集っているよう。 

 この春、いわゆるお花見の風景を実際に初めて目にした。 
横浜、南区の中央を流れる大岡川沿いは、桜の名所として有名だ。
生活圏内であったためか、見逃していた。花見場所という人工の臭いと自然が混在す
る景観を避けていたせいかもしれない。 

 先日、思い立って、夜の川沿いを30分ほど歩いてみた。 
約3.5kmのプロムナードに、1500個近いぼんぼりが下がり、700本のソメイヨシノを照
らし出す。小さな貝殻を散りばめたように、桜の花が川面に光る。 
 桜並木はスポットライトを浴びて、花見の宴とうまく交じわり合い、すべてが楽し
そうだ。 
よく見てみると、桜の木はずいぶん古い年輪を持っている。枝の長さも、まっ直ぐに
伸ばしてみたら、向こう岸に届きそうなほど。 
大木からニョキニョキと伸びた枝花が、川の水に向かって落ちている様子は、一種迫
力の風貌。首を伸ばして川の水を飲みたがってるみたいだ。 
桜の香りに誘われて、丸々と大きな鯉が何匹も尾ひれを動かしている。 
大岡川と桜の歴史を感じる。 
すぐ側に、鎌倉街道が通っている。プロムナードの中心地、弘明寺は、源頼朝が鎌倉
幕府の鬼門とし、ここに観音を祭った。 

 人は桜の香り(フェロモン)に集うと聞いたことがある。桜は水が好きだと聞いた
ことがある。本当なのかも、と思った。 

 この夜の満開の桜景色より、いっそう好きな光景がある。 
桜の花びらがひらひらゆっくりと地面に舞い落ちる時。 
春の風に揺られてもいいし、しとしと春雨とともに降るのもいい。 

<花の色は 移りにけりないたづらに 我が身世にふる ながめせし間に>* 
 小野小町は、この歌を詠んだ時何歳だったのだろうと、考えることが度々ある。ち
なみに、生没年、伝未詳で、平安初期の女流歌人。 
「うんうん、分かる分かる。この歌好きなんだよねえ。」などとほざいてる私は、ま
だまだ分かっていないのか、多少は分かっているのか・・・よく分からない。 

 だけどね、小町女史に言いたい。 
桜の花は散りながら、少しずつ新しい色を着けて行く。 
いま、大岡川の桜は葉桜。ピンクと緑の色が交互に連なっている。 
<花の色は 移りながらにいくたびも 我がみどり輝き 諦めないもん>byあきたこ
まち (「幾」と「行く」と「生く」、「身+鳥」と「緑」が掛け詞)

*歌意<古今和歌集より/小倉百人一首の一つ>「桜の花の色は、早くもあせてし
まったことだなあ。なすこともなく、降り続く長雨に日を過ごしていたその間に・・
・。と同時に、私の容色も衰えてしまったな。虚しい恋の思いに明け暮れて、ぼんや
り物思いにふけっている間に」(「降る」と「経る」、「長雨」と「眺め」が掛け
詞)



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