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南シナ海中国海洋覇権の野望に注目を
牧念人 悠々
友人たちの勉強会「相武台会」(11月29日・相模原市東林間)で武田健策君からロバート・カプラン著「南シナ海中国海洋覇権の野望」(訳・奥山真司・講談社・2014年10月23日第1刷発行)について話を聞く。この著書は中国の南シナ海の野望について米国のカリブ海を支配していった歴史と比べて説くもので分かりやすく興味深かった。
著者は「中国にとっての南シナ海は、19世紀から20世紀にかけてのアメリカにとってのカリブ海のようなポジションにある」とみる。「アメリカはカリプ海にヨーロッパ列強のプレゼンスと領有権があることを認識していたが、それでもこの地域を自分たちだけで支配することを狙った」という。1898年に主にキューバを巡って争われた米西戦争と1904年から14年にかけてのパナマ運河の建設によってアメリカはカリブ海全体を支配し、西半球を実質的にコントロールできるようになった。これによって東半球のバランス・オブ・パワーに影響力を行使できるようになる。中国はこの歴史を研究しており、21世紀の中国もこれと似たような行動にでる可能性があると著者カブランは指摘する。歴史は繰り返されるのであろうか。
21世紀の”新しいカリブ海”が”南シナ海”であるというのだ。南シナ海はインド洋と太平洋を結ぶ最短ルートとして、世界原油タンカーの2分の1が通航するなどグローバル経済を支える海上交通の要衝である。1970年代後半に海底油田(原油の確認埋蔵量70億バレル)の存在が確認され、排他的経済水域内の海底資源(天然ガス埋蔵量25兆立方メートル)や漁業権の獲得のほか広大な地域の島々は軍事的にも価値がある。しかも中国、フィリッピン、ベトナム,台湾、マレーシア、ブルネイが領有権を主張しあう複雑な海である。現にベトナムとフィリッピンが中国と激しくぶつかっており、すでに死傷者が出ている(1988年3月14日南沙諸島の赤瓜礁で中国海軍とベトナム海兵隊が衝突。ベトナム側が64人死亡、9人捕虜の犠牲を出した)。
著者カプランは中国の「地政学」に注目する。中国の持つ海岸線の半分が南シナ海に面している。残りの半分は渤海,黄海、東シナ海に向いている。ここでのセキュリティを強化しようとするは合理的であるとする。また埋蔵する天然資源を占有することでエネルギー安全保障のへの効果もあるという。中国が「南シナ海を核心的利益」という所以のもの。尖閣諸島をめぐる日本と中国との領有権問題を考えてみよ。日本の領土であるのに中国もまた我が国の領土だと主張する。一発触発の危機さえあった。今回の日中首脳会談で「異なる見解を有していると認識して」対話と協議を通じて情勢の悪化を防ぐとともに危機管理メカニズムを構築して不足に事態の発生を回避することに意見の一致を見た。著者カブランは今後とも中国問題が起きるとみる。13億という巨大な力が存在し、それが力を着実に増大させてゆくのは、国際政治に対して大きな問題を与えると指摘する。さらに中国が軍備を増強し海洋覇権国家を目指すものは過去に列強から受けた「屈辱」と「恐怖」があるという。この見方は極めて重要だ。アヘン戦争(1840から42年・アヘンの禁輸措置から起きた清国とイギリスの戦争)を持ちだすまでもなく列強は中国を蹂躙した。日本も例外ではない。心のどこかにはその屈辱を晴らしたいという思いがあるのは否定できない。
現在南シナ海がかろうじて均衡を保っているのは米軍の存在だという。その米軍が財政状況の悪化から軍事費を削減し南シナ海から米軍が撤退すれば不安定な状況になる。南シナ海で通用するのは民主的な価値観よりも「バランス・オブ・パワー」だという。この意味からも日米同盟は強固なものしなければいけない。平和に慣れ過ぎ、国を守ることを忘れ、軍備を怠ってはならない。平和憲法9条が国を守るのではなく国民が国を守るのだ。別に戦争をするというのではない。カブランの言うように「道徳的な価値判断や感情を排して東アジア情勢」を見ればこのような結論にならざるをえない。
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