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お芝居「太鼓たたいて笛ふいて」
牧念人 悠々
こまつ座の「太鼓たたいて笛ふいて」を見る(1月20日・東京新宿・紀伊国屋サザンシアター)。今年はこまつ座30周年。相変わらず客席は満員だ。作家林芙美子の半生を描いたこの作品はなぜか今の時代と響きあう。
まず6人の俳優が登場。歌う。「はるかどこかで かすかに地鳴りがする あれは大砲の音 火薬の匂いもする ときは昭和の10年の秋・・・・」
昭和10年はどんな年か、事件・世相をみる。4月美濃部達吉、天皇機関説のため不敬罪で告発される。満州国皇帝溥儀来日。8月永田鉄山少将相沢三郎中佐に軍刀で刺殺される。9月第一回芥川賞に石川達三の「蒼氓」。駆逐艦「初霜」「夕霧」船体切断事件起きる。喫茶店流行。東京に1万5千を数える。そこで働く女性5万人。島木健作のルポ『満州紀行』読まれる。有楽座開業。ニュース専門館誕生。
「戦はもうかる物語」という三木孝(木場勝己)の進めで林芙美子(大竹しのぶ)は戦地に出かけ従軍記を書く。昭和5年『放浪記』がベストセラーになり流行作家になっていたが戦争の実態を知るに及んで反戦に傾き、戦後は『うず潮』『浮雲』の名作を生む。
では、現代誰が「儲かる物語」を唱えているのか。シリアの内戦で1月の死者は5794人、2011年3月にアサド政権が反体制デモを武力弾圧して以来死者は13万6000人に上る。身近では「にせの投資話」。被害額は176億円に及ぶ。次は「アベノミックス」による『円安株高』である。株高は外人投資家の投機的投資による。いつ株が暴落するかわからない。景気の好循環を望むのにやぶさかでないが、常に疑問を持った方がベターな生き方である。
日本と中国、韓国の間柄も気にかかる。きなくさい匂いがする。最近、安倍晋三首相がダボス会議の前に外国記者団と交わした問答が問題になった。「日中の軍事衝突の可能性」についての質問に、安倍首相が明快に否定すればよかったのに「今年は第一次世界大戦から100年を迎える年だ。当時英国とドイツは大きな経済関係があったのにかかわらず大戦に至った」のべたのにすぎなかった。外国人記者は「中国との紛争の可能性を排除しなかった」ということで、問題にした。世界は尖閣列島を巡る日中の問題を危惧の目で見ているようだ。これは危険な兆候だ。早くも世界の終わりを意味する「アベゲドン」という言葉すら生まれている。どんなことがあっても日中は戦ってはならい。「不戦」が歴史の教訓である。
舞台(2幕)では警視庁の特高刑事の加賀四郎(山崎一)が手帳を見ながら林芙美子の国防婦人会の発言を読み上げる。昭和17年に8ヶ月間、内閣情報部と陸軍省から派遣されてシンガポールやジャワやボルネオなど日本が占領した一帯を見て回ったところ、どんなことをしても今度の戦に勝つ見込みはない。こうなったらきれいに負けるしかない。しかしこの国には上から下まで見渡してもきれいに負けることができるだけの器量と度量の人間がいないといったという。作家の目は鋭い。
林芙美子は昭和26年6月28日下落合の自宅で急死する。享年46歳であった。朝日新聞に連載中の「めし」(93回)が遺稿となった。墓は東京中野の万昌院功運寺・鹿児島桜島に詩碑がある。「花の命の短くて苦しきことのみ多かりき」
舞台で娘・芙美子の遺骨の入った箱を抱くキク(梅沢昌代)姿が痛々しい。私はこの人のひとつひとつの所作の絶妙さにいつも感心する。最後に三木孝が歌う。
「あなたはまいにちの
哀しみを 苦しみを書き残した
だからこそあなたの
いくつもの本は いつも慰めるでしょう
ひとというひとを」
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