2013年(平成25年)5月1日号

No.572

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花ある風景(490)

 

並木 徹

 

牧内彰子さんの染織「波上の輝き」
 


 会場に来てびっくりした。展示室8部屋。作品の数647。ずらりと並んだ日本の工芸品。漆・金属・陶磁・木・皮・竹藤・人形・染織。目を奪う。どんより曇った春冷えの日(4月21日)にもかかわらず、観客は後を絶たない。東京・上野の東京都美術館で開かれた『第52回日本現代工芸美術展』(4月18日から4月23日)である。

 甥の牧内克史の嫁さん・彰子さん(名古屋市緑区在住)から「今年も入選し新人賞をいただくことが出来ました。絞りの作品で形状記憶させ少し立体的な作品となっています。若しお時間がありましたら・・」と誘いの手紙を頂戴した。実家は有名な有松絞りを家業としていると聞いていた。今は弟の久野剛資さんが4代目を継ぎ、絞染色家として頑張っている。牧内一族に芸術家誕生かと喜んで出かけた。目指す作品は3室から4室に入るところから右壁8番目に飾られていた。墨痕鮮やかに書かれた「工芸新人賞」の上に作品「波上の輝き」(染織)があった。右隣、香川県の人の作品は「時を超えて」。左は長野県の人の「気の遊」。皆それぞれに作品の題名に己の気持ちを表しているように思えた。彼女の作品。青。紫。褐色の糸の波が迫ってくる。若さを、気迫を感じる。気品が漂う。彰子さんからの手紙によると、絞の形状記憶の作品は高熱をかけるため近くの実家の絞染色業の工場に持ち込み、窯で熱をかけ形状を記憶させることができたのはラッキーなことであったとある。さらに波を表現している「しわ」は糸で巻いた布を押し縮めて表現する嵐絞りという作業で、「しわ」をつくるにはかなり力がいる仕事だそうだ。

 「糸を染めること」「布を織ること」それはなまやさしくないであろう。作品はその人の心の表現であるのは間違いない。「苦悩を抱いている人しか、魂の入った布は織れない」といった人がいる。とすれば、彼女もそれなりの苦悩を抱いているのだろうか。彰子さんの作品には人を動かすものが秘められている。そういえば「現代工芸賞」(染織)受賞の天谷理彩の作品名は「暁光」詩編108−2とあった。詩編108-2は「竪琴よ,琴よ、さめよ。 わたしはしののめをよびさまします」である。図柄は亀が明るい美しい模様に向かう抽象的なものであった。未来、希望を暗示するのであろう。一連の作品を眺めているといろいろ連想されて興味深い。

 江戸時代、庶民が生活するために生み出した有松絞が伝統を生かしながら創意と工夫を重ねられ、現代、新たな光を浴びるのはなによりだ。