2011年(平成23年)10月10日号

No.517

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追悼録(432)

墓  参


 また、秋のお彼岸になった。長男の私は墓守の担当である。まだ両親だけが入っているお墓の洗浄、掃除も終り、お花を生け、仏さまの好きな甘味をお供えし、お線香をあげ両親と対面、合掌したあとの爽快感はなんともいえぬ。お墓にはいろいろな思い出がある。
 お墓は昭和46(1971)年両親同居の私たち一家が将来東京よりどこか閑静な移住先を考えていたところ、偶然西部不動産の鎌倉七里ガ浜の分譲を見つけ、私は勤めがあり妻が代わりに午前3時起きで購入に行った。当時人気の場所で、たいへんだったのでオヤジも妻の付き添いで行ってくれた。それでオヤジもこの土地をたいへん気に入って東京からときどき草刈りに出かけて行ってくれていた。

 土地購入後間もなく西部で鎌倉霊園の販売を知る。考えがあって両親に内緒で購入した。将来鎌倉へ越したら近くでお守もできる。我々も入るのに場所は極めて風光明眉、眺望のよい水場、トイレ、循環バス停近くで隠居所にしたいような便利な場所を選定した。

 しかし時期も時期、かねがねオフクロの持っている土地を売って老後の足しにしたらと、勧(すす)めていたのが売れたのである。早速、懐が温まった両親から、オヤジが分家なのでそろそろお墓を買いたいと相談を受けた。さあ困った。お墓がダブってしまう。内緒にしていたのを言う破目に。「実はお墓は買ってあるんだ」と白状する。すると、久しぶりの懐かしいオヤジの怒声「バカヤロー、なぜそんな大事なことを言わなかったんだ」、私、「黙っていたのは、なんだか親に入るのを催促するようで、言いにくかったんだ」オヤジ「すぐ連れて行け」という。早速、車で鎌倉まで案内する。するとどうでしょう。両親大満足。胸をなでおろし一件落着。オヤジと一緒にそこで立ちションベン。嬉しかったらしい。しかし、一世一代の痛恨事、残念にも一緒に鎌倉へ移住するのを楽しみにしていた肝心のオヤジが計画半ば胃がんで亡くなった。そして今は、後を追うようにして亡くなったオフクロと仲良く一緒に、お墓に私が入って来るのを待っている。

 先日、同居している長女から突然「私たち鎌倉霊園に一緒に入っていいかしら」と相談がある。「ダンナは了解してのことかい」「OK」とのこと。ま、賑やかになっていいかツ。そういえば近くにいる次女もそんな話があったのを聞き流していたのを思い出す。物には優先順位というのがあるのである。よく考えると卑俗ではあるが、「火葬場でオヤジのキンタマ焼け残り」つまり、おかしくもあり悲しくもあり。実は、入る順番の1はかく言う私なのだから。

 今のご時勢の若者たちは余り家系など気にしないらしい。ムコどもは二人とも実家の長男である。どうも孫たちもその気配である。これはこれは一族みな入ることになると大混雑、交通整理しなければ。いよいよ遺言に追加で「お墓利用規程」なるものが必要になりそうだ。オイデ、オイデとは言えないが、幸か不幸か骨壷が入るカロートはたっぷり空きがある。先見の明ありか?

  1. 坊さんに拝んでもらって○○家の墓石は取り替え、今度は「和」とか、「幸」とか今流行りのなんか文句を刻むか、無銘の自然石墓石にしなければ。

  2. はいれるものの資格は、同じDNAを持つか、またはその正式?な伴侶・養子に制限する。有象無象つまらぬものまで入らぬよう。

  3. 混乱を避け、生き仏様に判るよう墓碑銘に必ず先代との続柄を刻む。

  4. 墓碑銘の石も大きくするようかな?

 等々お線香をあげ、帰りの車中、カラスにやられるので、下げてきたお供えをムシャムシャ食べながらいろいろつまらぬことを愚考する。漱石の「草枕」、「山路を登りながら、こう考えた・・・・・」の高邁なのとは程遠い。

 妻の実家の墓は多磨墓地にある。このごろは姪が墓守をやってくれるが、かつてはこれも私たち夫婦の担当だった。まだうら若きころのある寒い年末のお墓参りだった。お掃除も終り妻が父の好物の大関のワンカップをお墓に注ぎ、お供えして合掌、線香の煙の中、やおら、そのワンカップをとりグイッとイッパイやるではないか。そしてしみじみ「あーうまいツ!!」。寒さも加わりオヤジと一緒に飲めて大満足だったのだろう。知らなかったスゲー妻の一面を見、その豪傑さに鳥肌が立つのを今も鮮明に思い出す。

 でもそのうら若きお方も、いいオバーちゃんになって亭主の前で平気でチビリチビリ、好きなテレビの時代劇を見ながら晩酌をやっている今日このごろである。結構、結構!しかし、オレも不自由するから、入墓の順番だけは守ってくださいよ。


(安  本丹)