2011年(平成23年)8月1日号

No.511

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山と私

(77) 国分 リン

― もうここで、あきらめず初挑戦した沢登り「新茅ノ沢」 ―  

 沢登りとは、渓流は美しく見えるが、一般に「山で道に迷ったら尾根に出ろ」と言うように、歩くコースとしては良くない面が多い。凹凸が激しく、足元は滑りやすく、水に落ちると身体を冷やす。また、滝があると迂回しなければならない。登山形態としての沢登りのパイオニアは、黒部峡谷の遡行で知られる冠松次郎である。1980年代中頃から積極的に泳いで滝や淵を突破するウォータークライミング要素が取り入れられるなど、ルートのグレードアップが盛んに行われるようになり、またマタギの行動・生活技術の導入など、自然回帰的な志向も一部で広がりを見せた。2000年代に入ると温暖化とヒートアイランド現象の影響もあってか、避暑としての水遊び的な沢登りが盛んになり、年齢層も再び多様化していると見られる。「ウィキペディア」より

 私の山との出会いは、高山植物にあり、ひたすら花を求めて山登りをした。でも「スポニチ登山学校」へ入校して変わり、剣・槍・穂高から、残雪期にアイゼン・ピッケルで常念・槍も登れた。登山学校の終了式の時に片平先生が「沢登りをしてみますか。友達を誘ってどうぞ」。その約束を覚えていた片平先生が「7月10日小田急・渋沢駅8時45分集合、ヘルメット・ハーネスを必携。靴は通常の登山靴、着替えとコース」が封書で届けられ、同行する友スポニチ4期生のMさんにも渡した。雨天中止と書かれていた。初級コース、行く前にネットで調べたらF1からF10まで滝に番号が振ってある。渋沢駅からバスで大倉まで入り、水無川に掛かる立派な「風の吊り橋」を渡り、ひたすら戸川林道を歩き、途中自然湧水があり、こんこんと水が2箇所の出口から溢れていた。以前は行列して汲んでいたが今日は誰もいなかった。1時間ほど歩き、新茅橋の手前で「ここから沢床へ降りますよ」「えっ、道が無い」「踏み跡があるから私の後をゆっくりと」急坂を慎重に降り沢へ到着。ハーネスを付けヘルメットを被る。先生のザックから40mのザイルが出て、カラビナに通し、私とMさんと個々にアンザイレンで、余分なザイルを首に架けた先生の姿はとても頼もしい。さて私といえば、胸の動悸がおさまらない。周りを見渡すとひんやりとした暗い廊下状になっていた。F1の目印がある滝4bに到着し「私が登るように、手がかり、足がかりもあるから」「濡れて当然、濡れながら登る」先生はするするとあっという間に登り、木にザイルを固定して私たちの為にザイルを降ろし、「OKですよ」ここは何とか必死で登った。Mさんは問題なく身軽に登ってきた。次がF2, 4bここも登れた。次のF3の滝7bここが私にとって最大の難関であった。途中までは何度か行き、その先の一歩が登れず腕が震えだした。「先生もう登れない。」情けない。「私ここで待ってる。」悲鳴を上げるが、水音に消えた。Kさんに「ここには戻ってこないし、登って行かないと降りても行けないよ」片平先生が降りてきてユマールをザックからだし「これで登ってみましょう」ザイルに付け腕を上げると滑らず、それに沿って登るようなのだが始めてで要領が悪く駄目。30分程ジタバタして情けない。最後に先生が引き上げるからその気合で登ることになり、何が何でも諦めないで気合を入れて登る。登れた。自分の体の重さと、足腰のバランスの悪さを我ながら呆れた。一回で登るMさんの様子を上から見、感心する。先生はザックを取りにまた降りて、簡単に登ってきた。本当に感謝で胸が一杯になった。ちょうど私がジタバタしている時に上から若者集団6人が降りてきた。

 リーダーがザイルで懸垂下降をして滝つぼにドボーンと降りた。次々水溜りに浸かり滝つぼに落ちていった。唯一の女性は上に高播きしてから慎重に降りていった。「あれは邪道ですよ。滝つぼに落ちるなんて。」片平先生が男性リーダーを批判していた。

 つづいてF4,4b、F5,5bがあり、記憶に残らないほどに登れ、ゴーロの沢となり皆に遅れを取りながらも必死で登り、遂にF6の12bの大棚がたちはだかる。新茅隋一の大滝である。「ここは高播きして上に出ます。」左側にあきらかな道は無く、先生がフィックスしながらロープを延ばし「登ってきてください。」ロープにカラビナで安全を託し、急騰を登る。最後にKさんがロープを回収しながら登ってきた。次に大滝の上にでるには回りこんで下る。また先生がロープをフィックスして、安全を確保して「気をつけてきてください。」慎重に下り、大棚の上に出た。そこは広場になっていて滝の右横にはロープが付けられていた。また石ゴロゴロの道を登り、F7の4b近い滝を登り、また凹凸のざれざれの道を登る。Mさんはどんどん先に行き、F8の8bの滝に着いたがもう登りきっていた。先生は心配していたが、「ここは右のまき道を登りますよ」私をクリアさせなくてはと、ロープで確保して引き上げてくれた。そこからはひたすら崩れ落ちそうなざれざれの道を登ると、Mさんが待っていた。片平先生は安心して「この場所が初心者の人が沢から尾根に出る場所ですよ。」良かった。登りきった。

 鳥尾尾根の植林帯の上で休憩、先生はザイルやカラビナ類や靴を取替え、ザックに入れた。17時になっていた。私が足を引っ張り、時間が掛かったのは申し訳ない。「まだまだ明るく18時30分には大倉に着くように下りますよ。」山道を1時間ほどで下ると林道に出た。私はずぶ濡れの衣類を全て着替え、すっきりして歩いた。「風の吊橋」に到着した頃は月明かりになっていた。

 今回沢登りを初体験できたことは、スポニチ登山学校に入校し、山のジャンルが広がり、片平先生と知り合えた事だ。Mさんは身が軽く、岩も得意としていたので、とても楽しそうだ。まだまだ余裕があった。体験しなければ想像出来ない要素が多く含まれ総合力が必要で、岩場をよじったり、足場や手がかりをみつけ、足で登る。

 私の感想は「きつかった。厳しい。」が本音だ。この夏一番の暑い日に、涼しく無事に沢登りを体験できたことを感謝したい。