同期生、所司慎吉君が亡くなった(5月19日・享年85歳)本誌でも何度か所司君のを取り上げた。毎年春に開かれる佐久市権現山の「碑前祭り」には奥さんの押す車いすに乗ってしばしば参加した。短歌にも親しんだ。
「杖ついて恥ずかしさこらえて散歩デビュー脳梗塞の意地の見せどころ」
この歌がNHKの介護百人一首に入選した。5222人の中から選ばれた(2006年12月)。この時、彼は脳梗塞を患い闘病生活を余儀なくされていた。言葉不自由で、車椅子での生活。奥様の粋子さんがとにかく前向きで、何でもやろうと、積極的にことを進める方である。本人は酒が好きで結構召し上がったらしい。それで2回ほど同じ病に冒された。酒びたりの生活におさらばして、頭を使う歌の道を選んだ。医者の彼とは2001年5月8日長野県の浅科村(現佐久市)の権現山の「碑前祭」で初めて会った。粋子さんに車椅子を押されて参加、みんなを感激させた。今年の4月26日の碑前祭には彼の姿はなかった。
通夜の日(5月22日・四ツ木斎場)参列した同期生の西村博君、植竹与志雄君、梶川和男君らは直らいの際、式場に人がいないのを見計らって棺の前で「士官学校校歌」を1番と8番を歌った。同期生たちがたむけの歌を歌ったのを後で奥さんはだれかから知らされたのであろう。西村君ところへ感謝の葉書が寄せられた。「先日お通夜にはご多忙中駆けつけてくださり本当にありがとうございました。そして主人の棺に手を添えて軍歌を歌ってくださってただただ感動でした。主人にとって陸士は人生の魂だったのですからどんなに嬉しかったことでしょう。14年間の闘病生活を支えて―今ではいいことばかり思い出します。どうぞご夫婦お仲良く・・・」とあった。
佐久市は同期生にとって思い出の地。66年前の8月この地からそれぞれの故郷に復員した。この地は同期生の心のふるさととも言うべきところである。この地に立つと、私は生徒隊長、八野井 宏大佐(陸士35期)の言葉を思い出す。
一つ、士官候補生の矜持を持ち、やせ我慢を行うべし
二つ、役に立たぬ不平不満を言うべからず
所司慎吉君のご冥福を祈る。
(柳 路夫)
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