2008年(平成20年)10月10日号

No.410

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茶説

アコーディオン演奏会のハプニング演奏
 

牧念人 悠々

 80歳を過ぎると万事に外出が億劫になる。「生涯ジャーナリスト」を念じる以上、好奇心と向学心を持たねばならない。常に前へ・・・・だ。机への上には「遺伝子を阻害する要因」と書いた紙を張って己を励ましている。
1.いたずらに安定を求める気持ち
2.辛いことを避けようとする態度
3.現状を維持する気持ち
4.勇気の欠如
5.本能的欲求の抑制
6.成長への意欲の欠如
日付は平成18年12月23日である。2年ほど前から怠け病が頭をもたげてきたようだ。
ともかく、「よい遺伝子」を活発に働かせ、「悪い遺伝子」を活動させないようにすれば人間は健康で、よい仕事ができると最近の遺伝子研究が教えている。
 過日、1年ほど前に川崎市合唱団「アニモ」の演奏会でその美しい歌声を聞いた友人星野利勝君の夫人信子さんから今度は「アコーディオンの演奏会を開く」というご案内をいただいた。当日早速出かけた(10月5日・場所・川崎市中原市民館)。主催は平山アコーディオン教室。すでに20回目の開催である。ここでアコーディオンを学んでいる生徒達の発表会である。初心者から10年以上も精を出している人もいる。定年後の手習い言う人もいれば、ボランティア活動で老人ホームなどを慰問したいと言う人もいた。その意欲と前向きに生きる態度には敬服のほかない。
 「最近ようやく何とか演奏らしくなり始めたところです」という星野信子さんは2番目に登場した。「アニモ」の合唱の時は最後尾の右から7,8番目にならんでその容姿が分からなかった。今回はよく分かった。ふくよかな顔がやや緊張気味に見えた。演目は映画「ドクトル ジバゴ」の「ララのテーマ」である。白系ロシア人が多く住んでいたハルピン生まれの信子さんらしい演目と思った。奔放で淑やかなララに自分を重ねるのであろうかそれとも悲恋にひかれるのか、その顔を注視した。右手の指の運びはぎこちなくても懸命に演奏した。少なからずの演奏者が何らかのハプニングを起こした。それもみんなその“危機”を乗り越えてゴールまでたりつく。微笑ましく感じられた。生徒たちが選ぶ演目は誠に多様である。「サンタ ルチア」「ドナウ河のさざ波」「ラ クンパルシータ」「ボギー大佐」から「影を慕いて」「リンゴの歌」「荒城の月変奏曲」などあって興味深かった。1部の最後に10年前に平山教室で学び今は世界中で飛び回っている「あんざい のりえ」さんが登場した。「炎の接吻」など見事なパフォーマンス「町角のアコーディオン弾き」を披露、アコーディオンを自由自在にこなし、大拍手を浴びた。
 私は思った。アコーディオン弾きの途中のハプニングこそ演奏者その人の懸命に生きる姿を見る。巧みに指を操り演奏する人よりも私には尊く見えた。
 アコーディオンが今流行りだしているという。時代は復古調なのか。確かにその音色に昔の懐かしさを感じる。とすれば今度星野信子さんから満州育ちの「わたしたち」をきかせてほしい。満州で育った子供たちにとってはテーマソングである。信子さんに頼まないのは「勇気の欠如」ではないだろうか。
 それにしても一音楽教室でアコーディオンを学び、若者が世界へ飛び出し、あるいはボランティア活動したり、趣味として生かしたりする音楽活動はすごいと思う。日本の隠れた活力であろう。