2007年(平成19年)9月20日号

No.372

銀座一丁目新聞

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茶説

宰相の条件について考える

牧念人 悠々

 現代日本の宰相の条件を考えたい。本人が口にしなかったが病気とはいえ臨時国会で所信演説をしながら首相を辞任するのはあまりにも異常であり、無責任と言わざるを得ない。その著書「美しい国へ」で表明した「自ら反みて縮(なお)くんば千万人といえども我ゆかん」の気概はどこへいったのか。この言葉は吉田松陰が好んで使った孟子の教えである。とすれば首相は倒れてもなお「己の信念を貫き通せ」という教訓を私たちに与える。
「テロ特措法」は新法にするにせよ、延長すべきもので、それが日本の国益にかない、国際協力の実をしめす。安倍首相は国会壇上で血を吐いても成立させるべきものである。私利私欲に狂奔する世相を前に自らが国のため公のために尽くす姿を示す絶好の機会であった。
 そういえば小泉純一郎前首相は「天の将に大任をこの人にくださんとすりや必ずその心志を苦しめ その筋骨を労せしむ」という孟子の言葉を胸に全力投球をしたという。重大な決断は一人でし、ときには友情や好みを捨てて非情にならなければならないときがあると述懐している。だから首相在任期間が5年を超えたといえる。クラシック音楽を愛し、歌舞伎を楽しむ教養がそれをさえたと私は思う
 亡くなった作家の城山三郎さんはリーダーの条件について三つあげる。@人間,卑しくないことA常に生き生きしていることBいつもあるべき姿を追い求めている。
安倍首相は任命した大臣の「政治とお金」で苦しんだ。いやしいか、いやしくないかはその顔に現れる。それを見抜くのも任免権者の器量の一つである。「松岡利勝農相の自殺」は首相に深い傷を残した。占領時代に作られた憲法、教育基本法など戦後日本の枠組みを変革しようと試みた。これは「国民投票法」「教育基本法の改正」と結実した。これは評価できる。
今の時代は何が起きるかわからない時代である。その意味で「変化への対応能力」が試される。参議院で野党が過半数を占め自民党は国会運営がやりにくくなった。この変化に泣き言を言っていては先に進めない。話し合いには党利党略が絡むからそう簡単にゆかない。その場合どうするか、「政治的知略」を発揮することだ。その意味では周りに実力者のみならず知恵者も置く宰相の器量がいる。
9月23日に次の自民党総裁が決まる。福田康夫元官房長官が就任する。当然首相の座に就く。父親は首相を務めた福田赳夫である。父赳夫は昭和51年12月、71歳で首相の座に就く。ロキード事件の後で保革逆転の足音が迫る中で自民党は不人気であった。「さあ働こう内閣」のキャッチフレーズを掲げた福田内閣は経済の立て直しに成功、外交面ではに日中平和条約など目覚ましい実績をあげて人気を急上昇させた。だが自民党総裁予備選挙に敗れ2年であっけなく退陣した。「福田は間違いなく政策的対処の術を知る政治家であった」と評価された(渡辺昭夫編「戦後日本の宰相たち」(中公文庫)。父と同じ年齢で、当時と似たような状況下で首相の座に就く福田康夫も幾多の難問と向き合うことになる。その試金石は「テロ特措法」延長問題である。宰相としての手腕を国民は見守っている。

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