羽田澄子監督のドキュメンタリ―映画「終わりよければすべてよし」を再び取り上げる(2006年11月1日号「安全地帯」)。確実にやってくる「死」をどう迎えるか、医者者も病人も家族も問われる。羽田さんは医療は「死」を敗北としか捉えていないのではないか疑問を呈する。だから無益な延命措置がとられ、家族から見れば残酷と思えるほどの処置をする。「死」への積極的な対応も入れるべき学問ではないであろうかと提案する。そう考えれば昨年3月、富山県射水市で起きた人工呼吸器を恋にはずして末期患者7人が死亡した事件ももっと冷静な受け止めがなされ、患者から慕われていた担当医師も辞任に追い込まれることはなかったであろう。医療は「死」を栄光のゴールと捉え、病人は「天命」と思い、家族は「親身になって看護した」と満足できればよいのであろうが現実の世界はそうは行かない。その理想に向って努力する医療現場を映画は写す。在宅医療システムの「ライフケアシステム」。在宅医療を東京都を中心に350世帯の会員が支える。会費は7000円、医療費は健康保険。佐藤智医師を中心に常勤3人、非常勤2人、定期的に回診し24時間対応する。会員の自宅にそれぞれの薬が常備され、万が一の時は電話で病状を言えば伊藤医師がその病状に随って飲む薬を指示する。ここでの自宅死は51.8パーセント。
岐阜県池田町にある特別養護老人ホーム「サンビレッジ新生苑」。入居者130人。ターミナルケアが行われている。看護する人の無償の愛にも似た看護振りが目に付く。ここでクラッシクでも聞きながら穏かに死を迎えれば言うことなしである。「サンビレッジ新生苑」が多くを学んだのはオーストラリア、バラット市の老人福祉。「バラットヘルスサービス」は医療と福祉が提携した総合的な組織である。医療でも福祉でも必要とするサービスが受けられる。緩和ケア病棟もあれば在宅医療もやっているところもある。この国の医療の基本は税金で運営されている、民間の生命保険も利用できる。
スエーデンはかって長期療養病棟は姿を消し医療や介護の必要な人の住居になっている。ターミナルケアと在宅医療の充実に力を入れた結果である。医療は基本的には税金で賄われているが、国が決めた個人の上限額は医療が年16000円、医薬品が32000円である。羽田さんはスエーデンの取材で感じたのはナースが持つ力の大きさであった。
医療を動かすのは義人である。1人でも多くの義人の医師が出てくれば日本の在宅医療は充実する。栃木県小山市、栃木市、茨城県結城市で太田秀樹医師を中心とした「医療法人アスムス」の在宅医療活動は目を見張るものがある。医師常勤5人、非常勤4人、24時間対応する。在宅医療を支える老人保健施設、グループホーム、デイセンター、訪問ナース、訪問ヘルパー、居宅介護支援事業所などがある。見事に医療と福祉が提携している。運営は健康保険と介護保険によっている。どの地域でもやれば出来る。それには住民の協力が欠かせない。
あなたは最後どのような形で「死」を迎えたいのか。この映画を見てから決めてもよいが、自分の日頃の生き方と関連しているのは間違いない。なおこの映画は6月2日から岩波ホールで上映される。 |