2004年(平成16年)6月20日号

No.255

銀座一丁目新聞

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山と私

(8)
国分 リン

−至福の時の燕山荘−

  雪の衣をまとった槍ヶ岳の写真を撮りたいと考え,燕山荘なら夏と秋に5回登っていて、天候次第でこの4月末のゴールデンウイークに登ろうと決めた。北アルプスのメインストリートで表銀座の入口が燕山荘である。
 一週間ほど前から天気図を毎日注意深く見ていた。天候は高気圧に覆われ大丈夫、幸いな事に会社の山とカメラ仲間も同行する事になり安心した。4月27日「さわやか信州号」を予約し28日夜行バスで出発した。
 翌朝4時半穂高町に着き、予約したタクシーで中房温泉へ周囲は
まだ芽吹きの始まりである。夏の賑わいと違い、私たちと同乗した一人だけでひっそりとしている。準備を整え高鳴る胸を抑え、気合を入れて登り始める。第3ベンチまではほとんど雪もなく順調であった。第3ベンチからはいよいよ12本爪アイゼンをつけ、雪道を
ザクザク登り始めた。夏道と違い直線的にステップがついている。
富士見ベンチは雪に埋まり休むタイミングがなくとにかく一歩一歩
進む。ようやく合戦小屋(2,350m)についた。私を追い抜いた若者のパーテイ数組が休憩をとっていた。夏の名物スイカはほど遠いが、小屋でホットコーヒーやカップヌードルが準備されていた。ゆっくり腹ごしらえと水分補給をした。
 ここからが最後の難所というか急登をロープで冬道をガイドされた所を歩く。夏道と違い直線的で尾根に結びつき、ハードである。ハイマツの上に3mほどの雪が積もりちょっと道を外すと柔らかい雪へ片足が落ち大きな穴があく。息を弾ませあえぎながらちょっと
景色を見たら、なんと槍ヶ岳が姿を現した。それもはっきり大きくである。嬉しくなりまた元気になり歩き出した。燕山荘も姿を現した。でも近いようで遠く感じた。歩き出して6時間余少し疲れたのかもしれない。丁度よい岩がありそこで30分程槍を眺め、何も考えず至福の時を過ごす。時間にゆとりがあり、太陽の日差しが暖かく照らしてくれる。幸せである。

 12時少し前に燕山荘へ着いた。大天井岳・穂高・南岳・槍・双六・水晶・三俣蓮華・鷲羽・針の木・剣・燕・餓鬼全部見えた。思わず歓声を挙げた。

 小屋の中へ入って驚いた。柱全部に斜めや横に太い棒が支えになっている。サンテラス側もまだ2重3重の雪囲いがされたままである。いかに自然の脅威の凄さを物語っている。

 カメラと三脚を持ち燕岳へ、あの奇岩怪石たちが迎えてくれた。雪が張り付いていた。雪道にロープのガイドがされている。50分ほどで頂上へついた。光線を考え三脚にカメラをセットし、シャッターを押す。夕焼けで山が染まるのを期待ししばらく待つ。夕方4時半過ぎまだ日が高いがさすが雪を渡ってくる風は冷たく、冷え込みも激しくじっと待つのは辛くなってきた。周りを見渡ししてもあまり夕陽はよくなく諦めて小屋へ戻った。

 翌早朝モルゲンロートを期待し、カメラをキャンプ場の上の広場へ構え待つが、地平線のうえのガスが邪魔をし、真っ赤な太陽が出ず、山も染まらずちょっとがっかりしたが、今日も快晴は間違いなく、周囲の山は全て姿を現し、あまり贅沢はいえない。

 大天井岳を越え常念岳へ縦走しようか迷ったが、今回の主目的は
槍ヶ岳を存分に被写体にすることなので燕山荘に連泊していろいろな角度と光線の具合で撮影する事にした。

 この日は蛙岩まで数ケ所でゆっくりカメラをセットし構図を決めて、シャッターを押した。この槍ヶ岳へ続く表銀座縦走コースは急いで通り過ぎることばかりで4方8方ゆっくりポイントを探しながらの撮影はとても良かったと思う。
 かの北鎌尾根や西鎌尾根の様子も一目でわかり、穂高・大天井岳の眺望も最高である。光と影や雪の質感を出すにはどうすればよいのか等、考えながらシャッターを押した。蛙岩についた。夏道は巻き道だがそこは急斜面の雪の壁になっていて渡れない。したがって冬道は岩の間を攀じ登り両手でしっかり支え、足元は凍っているので気をつけて蛙の喉もとの穴をくぐり次のステップへ下りていくとより槍と穂高が近づく。しばらく蛙岩の一部の岩に腰をおろしその視界を楽しむ。
また蛙岩の穴をくぐり燕側へ戻り、そこで1時間以上とどまり、心ゆくまでのんびりする。陽だまりは暖かい。
 夏には考えられない雪ピの上に乗り安全を確かめて三脚を立て雪面にでているダケカンバの列の影に感激し、写真を撮る。いよいよ
太陽が頭上にきたので燕山荘へ戻り、昼食をとる。午後は山仲間達やオーナー赤沼さんとの楽しい語らいに一息。
 夕陽は、山は焼けるか、何度も偵察に出るが、この夕は駄目と判断し、撮影を諦めて、最後の朝にかけて早く休む。

 最終日 日の出前4時頃からカメラを構え願いを込め、待ち続け
何度もシャッターを押した。でも雲が下界のほうに厚く湧き、その雲も赤くならず、随分高くなって太陽が黄色にのぞかせた。残念ながら望むように山は輝かなかった。でも周囲の山々は素晴らしい姿を堂々と現している。この3日間いつも輝いて私の目の前にいる。感謝したい。柔らかい朝の光に輝く山々を充分心に刻み、まだまだ
ここへ居たい感情を残し、いよいよ下山。

 登ってきた時のあえぎを感じながら快適に下る。今日は随分登ってくる人が多い。あっそうか今日5月1日からゴールデンウイーク
の始まりを知る。登ってくる人の幸運(天候)を祈ろう。

 この3日間同じ場所へ留まり、ゆっくり心ゆくまでカメラを構えシャッターを押し続けた。今までこんな山登りはしたことが無かった。でもこれも山登りの一つの方法であることに気がついた。
 自分の好きな山や高山植物を見つけそこでゆっくり時を刻む事は最高だと思う。

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