2000年(平成12年)8月20日号

No.117

銀座一丁目新聞

ホーム
茶説
追悼録
花ある風景
横浜便り
告知板
バックナンバー

 

追悼録(32)

 大杉 栄さんの四女伊藤 ルイさんは1996年(平成8年)6月28日、ガンのため74歳でなくなった。
 大杉 栄さん(38)は無政府主義のその思想ゆえに危険分子として、妻伊藤 野枝さん(28)、甥の橘 宗一さん(6)とともに1923年(大正12年)9月16日、渋谷憲兵分隊長(兼麹町憲兵分隊長)甘粕 正彦大尉と東京憲兵隊本部員によって麹町憲兵分隊で殺害された。
 この時、ルイさんは一歳3ヶ月だった。一つ違いの姉笑子さんと福岡博多にある野枝さんの実家の祖父母に育てられた。軍国主義の時代、無政府主義者の子、非国民と周囲の冷たい視線、よそよそしい態度の中で過ごした姉妹がいかに傷ついたか想像にかたくない。この姉妹に罪はない。その痛みを知るのが人間というものであろう。
 ルイさんは結婚して4人の子供をもうけた。結婚の際、夫は大杉の娘と一緒になるというので親から勘当された。ここにも世間体を気にする日本人の悪い面がうかがえる。
 1976年(昭和51年)、公表された両親と橘少年の虐殺の鑑定書をみていまさらのように肉親としてのいきどうりを感ずる。このころからルイさんは草の根運動をはじめる。朝鮮人被爆者孫 振斗さんの支援、甲山事件、東アジア反日武装戦線狼事件、死刑問題等々・・・
 組織に縛られず、同じ目的をもつものたちが集り、討論し行動し実現すると、また別の草の根運動へ進む。「思想に自由あれ、行為に自由あれ、さらに動機に自由あれ」と父親が主張したとうりの動きである。血は争えないと思う。
 73歳の時、ガンとわかり、延命措置を拒否する。この間キリスト教会で洗礼をうけ、従容として死についた。この人らしいと思うが、死を迎える人たちにひとつの示唆を与える。
 このような伊藤 ルイさんを描いた映画「ルイズ その旅立ち」(藤原 智子監督)は私たちに生きるためのさまざまな教訓を与えてくれる。
 この映画を見ないで、その内容も知らないで、大杉 栄の娘の物語と聞いて、敬遠する人がいる。非難する役人もいる。ルイさんの自由なくったくのないしかも組織に縛られない生き方は今の時代に求められている。
 この映画を今後、機会あるごとに上映のお手伝いをしようと思っている。

(柳 路夫)

このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。
www@hb-arts。co。jp