2000年(平成12年)8月20日号

No.117

銀座一丁目新聞

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花ある風景(32)

並木 徹

 渡辺 淳一さんが先ほど「週刊現代」にアイスランド紀行」を3週間ほど連載した。9年前から日本アイスランド協会の会長をつとめているので、渡辺さんとアイスランドの縁は深い。私はそのもとで7年間副会長をしていた関係で時々渡辺さんに会う。渡辺さんの話は興味深い。
 空前のベストセラーとなった「失楽園」の新聞連載が始まる前、渡辺さんは「阿部定」の話をした。「あれをちょんぎッた気持、わかるような気がするなあ」
 安部定事件でも書くのかと思って聞き流した。このころ、失楽園の構想をいろいろ練っていたようである。
 安部定事件は昭和11年5月18日東京・荒川区尾久の待合で愛人の男の下腹部を切り取りそれを大事にもったまま逃走、3日後に捕まった。愛を独占したかったというのが犯行の動機であった。当時、猟奇的な事件と騒がれた。見方を変えれば、愛の極地の一つの結末であった。
 失楽園の結末が心中という形で締めくくられ、解剖所見で淡々とつづられているのは、余計に愛の深さを感じさせられる。
 このころ、お会いした時に、日本では女性の性器の表現が乏しいと嘆いていた。私は「そんなものか」とまた聞き流した。その答えがでた。
 今年の3月からはじまった月刊「文芸春秋」の小説「シャトウ・ルージュ」8月号にフランス語で「ル・セックス・ラ・フアム」は177の表現があると記されている。
 ひとつづつ読んでみても面白い。単なる言葉の羅列ではない。「運河」 「水路」 「小船」 「地下室」などなど・・・よほどその道の達人でなければ理解しがたい。このひとつひとつの言葉から小説さえできそうである。
 今回の小説はシャトウをみて、あのようなたくさんの部屋のある城でどんなことが行われているのかと想像したことから生まれたという。この小説は妻との性不一致がテーマだが、これから書きたいのは「嫉妬と不能」といっているから今後も面白い作品が期待できそうである。

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