天高うして日月懸かり、地厚うして山河横はる。日月の精、山河の霊、あつまりて我が心に在り。高き天と、厚き地と、人と対して三となる。人無くしてそれ何の天ぞ。人無くしてそれ何の地ぞ。人の心の霊なるや、もって鬼神を動かすべし。人の心の妙なるや、もって天地に参ずべし。 燦たるかの月と日と、遙かに我が心を照らす。我が心の凝りて動くや、よく日月を貫くべし。峨々たる山、漫々たる河、常に我が心に通ふ。我が心の遠く翔るや、よく山河を包むべし。ただ六尺の肉身に限らるる、我が心ならず。ただ五十年の生涯に、つきぬべき我が心ならず。 見よ、雲に色あり、花に香あり、聞け風に音あり、鳥にこえあり。この中に生を託したる、われ人にこの心あり。至大至剛はこれ心力、至玄至妙はこれ心霊。ただこの心あるが故に、われ人は至上至尊なり。それ眼前の小天地は、離合聚散常ならず。我と我が身と心とを、この中にのみ限るものは。 天なる日月の精を見ず、地なる山河の霊を知らず。その精と霊とを鐘めたる、わが尊さをわれと悟らず。眼にさへぎる影をはらへ、耳に塞がる塵を去れ。その影消え、その塵絶え、心はすみて鏡の如く。湛然として淵の如くば、かの小天地に限られし。きのふのわれを外にして、至上至尊のわれあるを知らむ。