2014年(平成26年)12月1日号

No.628

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追悼録(544)

酔生夢死と高倉健さんの死

 夢の中で友人に「酔生夢死するな」と忠告された。日記を見ると11月16日に見た夢である。90歳近くなって「酔生夢死」でもないだろうと思ったがその文句が気になってしょうがない。『字源』で引いてみた。程子の語録である。「雖高才明知 膠于見聞 酔生夢死 不自覚也」とあった。程子とは程頣(ていい)といい。北宋の学者(1033年―1107年)である。意訳すると、「才能が優れ知識に明るくても見聞に拘ると、夢心地に生き、夢の中に生きたままに死ぬことを自覚しないということである。私には「現象ばかりに目を向けているとだめだよ」と教えてくれた夢のメッセージと受け取った。事実の背後にある深層の本質を見よということだと悟った。

 高倉健さんの死を知ったのは11月18日の夕刊であった、一面トップで報じていた。スポニチは連日大きく報道した。そこで高倉健さんの座右の銘が「往く道は精進にして忍びて終わり悔いなし」と知った。なるほど健さんをよく知る俳優たちや監督が異口同音に「健さんは役に没入していていた」と言うのはうなずける。

 銀座展望台に次のような感想を書いた(11月19日)

 「高倉健さん逝く(11月10日)。享年83歳。
 最後に出演した映画「あなたへ」を府中で見た。
 妻の散骨に船を出してくれた船の親方(大滝秀治)にお礼を言うシーンがあった。何気なく謝礼を渡しながら涙する。
 あとで聞いた話では涙は自然に出たという。役になりきっていたということであろう。
 『往く道は精進にして忍びて終わり悔いなし』を座右の銘とした。
 心からご冥福を祈る」

 もう少し説明するとその際、大滝秀治さんは「久しぶりにきれいな海を見た」というセリを言ったように記憶する。妻の骨を散骨した海はキラキラしていた。船を無理して出してくれた船頭さんの言葉が健さんの胸にぐさりと響いたのであろう。

 所詮、私は私である。

 「往く道は正道にして謙虚・感謝しても終わりに悔い残る」
 そんな人生のような気がする。



(柳 路夫)