2014年(平成26年)2月10日号

No.600

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花ある風景(516)

 

並木 徹

 

これは面白い本だ「野球 博覧」
 


 面白い本が出た。本の名を『野球 博覧』(平成26年2月3日発刊)という。誰が塁間90フィート(約7・4メートル)と決めたのか。野球はこの塁間の距離によって醍醐味が増す。野球フアンはいたく感動する。このことが本書の中で本邦初の「野球創世記」訳によって明らかにされている。そればかりでなく人生の生き方、新聞の作り方、ものの見方まで様々なことを教えてくれる。まさに『天才クロペディア・野球博覧』である。

 たとえば打撃とは何か言えば「相手投手の球を打つこと」。これが基本だ。川上哲治はこれを着実に実行したから「打撃の神様」になった。「球から目を離すな。それだけを実行しろ」と高校時代の打撃コーチに言われたことを愚直に守った山内一弘は「打撃の職人」と言われた。教え魔でもあった。基本に忠実であることがいかに大切であるかを示している。この世の中には「基本に忠実でない」人間が多い。「少年老い易く学成り難し」光陰矢のごとし。一日一日を粗末にはできない。基本さへ守れば道は開ける。

 山内一弘にはこんな記述もある。昭和31年10月8日(浦和球場・観客160人)毎日オリオンズ対高橋ユニオンズ22回戦。山内は2本の2塁打を打ってシーズン最多2塁打47品を記録し、高橋ユニオンズが4対3で勝って年間の勝率3割5分1厘として500万円の制裁金を免がれた(3割5分を切ると制裁金を取られる制度であった)。山内の2塁打は野手がもたつく間に記録したものであった。つまり高橋ユニオンズとしては勝てばいうことなし。毎日は山内が2塁打を打てば負けても良い…という試合であった。まさに筋書きのないドラマ。新聞は八百長試合とは書かなかった。「いざとなれば適当にやるのもプロの技。芸である」。見る者にも書く者にもこれぐらいの余裕がほしい。ぎすぎすするな・・・

 新聞はその日一番感動した記事を1面にしろ社会面にしろトップにすべきものである。これは新聞の鉄則である。昭和34年6月25日、巨人対阪神戦の天覧試合で長島茂雄がサヨナラホームランを打ったとき、毎日新聞整理部記者高原誠一は「これはナンパだよ」と社会面デスクに渡した。ところが社会面のトップ記事にはならなかった。「何でアタマにしないだ。バカデスク」と怒鳴ったという。この高原誠一のセンスが今でもほしい。

 ともかく毎日新聞の社内野球の事から大毎オリオンズ創設の秘話、プロ野球で活躍した名選手の実績、大リーガーの選手の事まで網羅されてある。またよく読めば毎日新聞が野球の創成期からノンプロ野球、プロ野球発展に貢献してきたがよくわかる。この本を編集したのが毎日新聞の今は全員OBで編成する「大東京竹橋野球団S・ライターズ」である。現役時代みんな書き手であった。年とともに原稿にユーモアと品格が出てきた。その成果が「野球博覧」に結実した。