2007年(平成19年)10月10日号

No.374

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花ある風景(289)

並木 徹

「テロ」を対岸視するな

 2001年9・11事件の実行犯19人中15人がサウジアラビア人であった。1996年6月25日、サウジアラビアのホバル・タワーで起きたテロ事件はサウジの急進的シーア派組織ヒズボラが燃料輸送車を爆発、アメリカ人19人、サウジアラビア人1人を死亡させ、、他の国々の人372人に重軽傷を負わせた反米テロであった。このように多くのテロ事件にサウジ人が関わっている。
 ピーター・パーク監督の映画「キングダム 見えざる敵」(10月3日・日本記者クラブ試写会)は4人のFBI捜査官がサウジアラビアの現地に乗り込み2人のサウジの警察官と協力してテロ犯人を殲滅、事件を解決するストーリーである。
 事件はサウジアラビア・リアドにある石油会社の外国人居住区で起きる。犯人はサウジ警察の制服を着ており、奪ったジープでマシンガンを発砲して住民を無差別に殺害する。さらに救急車が来て負傷者を運びだそうとしている際にも爆発する。死者100人以上、負傷者200人以上という惨事である。しかも捜査に向かったFBI捜査官2人も死亡する。
 事件を分析したFBI捜査官フルーリー(ジェイミー・フォックス)はテロガ巧妙且つ周到に計画されているところからサウジ基盤のアルカイダ・メンバー、アブ・ハムザの仕業と見てFBIの現地派遣を主張する。サウジ政府はアメリカの介入を嫌い、捜査を受け入れない。アメリカの司法長官も拒否する。
 どこの國にもヘソ曲がりはいる。フルーリーはワシントンポストの女性記者を使って駐米サウジ大使と面会、サウジの大物によるテロ資金調達疑惑をちらつかせ、4人のFBI捜査官が現地で捜査できるよう要求する。大使はやむなく捜査期間は5日間、常にサウジ警察が同行すると言う条件で許可する。
 現場に行くのはフルーリーのほか法医学調査官、ジャネット・メイズ(ジェニフカー・ガーナー)、爆発専門官、グラント・サイクス(クリス・クーパー)、情報分析官、アダム・レビット(ジェイソン・ベイトマン)である。サウジ側の監視役は国家警察のアル・ガージー大佐(アシュラフ・バルフム)である。大佐からは「証拠に触れない」「サウジ警察の立ち会いなしに聞き込みをしない」「イスラム教徒の遺体に触れない」「自分の目の届くところにいる」などの条件をつけられ捜査は一向に進展しない。それでもメイズは遺体から取り出した銃弾、破片のなかから、組み合わせるとビー玉となる証拠を見つける。あとでテロの首魁ハムザを確認し、危なく殺されるところを逆に射殺するきっかけとなる。さらにテロ側が予めテロ現場をビデオで収めたいた建物も探し当てる。
 ハレド王子に招かれた夕食会でフルーリーはサウジ警察の捜査能力を激賞する。王子は「テロ撲滅のためFBIも協力させてくれ」と言うフルーリーの要望を受け入れる。王子の発言はサウジでは絶対である。大佐の指揮の元で本格的な捜査が始まる。大きな穴が秋、水が溜まった爆発現場でサイクスが爆発に使われた車が救急車であることを探し当てたことから救急車は盗品で、救急車のあった病院には自爆犯の兄弟が勤めていたことが判る。直ちに兄弟のいた住居を急襲して全員を射殺する。首謀者はいなかった。部屋には英国、イタリア、日本などイラク戦争の有志同盟の大使館の写真が残されていた。
 その帰途一行が襲われる。このカーチェスの模様は迫力がある。レビットが誘拐され、彼らのアジトに連れて行かれ拷問される。捜査の停止を求めて人質にしたのだ。その模様を彼らはビデオで収める。アルジーラテレビでテログループが誘拐した人質を写して自分たちの要求をつきつけるおなじみのシーンである。
 アジトは多くのテロ達が隠れ場所としている「スウェディー」である。外国人にとって一番危険なところ。ここで銃撃戦が始まる。アジトに突入して無事にレビットを救出する。首魁ハムザは意外な所にいた。婦人と二人の子供のいる部屋の一室である。メイズが行くと、子供が泣いている。ポケットにあったあめ玉を差し出すと、お礼にとビー玉を出す。怪しいと感ずるメイズにソフアに座っていた老人が隠し持っていた銃を取り出したところをメイズが撃ち殺す。その銃声に部屋に駆けつけたガージー大佐がこれまた騒ぎに駆けつけたテログループの若者から撃たれて倒れる・・・
9・11以来「見えない敵」との戦いは続く。終わらない戦いである。人はいつかその惨事が自分の所にふりかかるとは知らないで、それを「泥沼」と呼ぶ。いつまで続くのか。憎悪が憎悪を招くことだけは間違いない。

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