2007年(平成19年)9月10日号

No.371

銀座一丁目新聞

上へ
茶説
追悼録
花ある風景
競馬徒然草
安全地帯
いこいの広場
ファッションプラザ
山と私
銀座展望台(BLOG)
GINZA点描
銀座俳句道場
広告ニュース
バックナンバー

花ある風景(286)

並木 徹

「正しいことを言うときは・・・」

 知人、水野正人さんからの誕生日カードに詩があった。「正しいことを言うときは相手を傷つけやすいものだと気付いているほうがいい。立派でありたいとか、正しくありたいとかいう、無理な緊張には色目を使わず、ゆったりゆたかに、光を浴びているほうがいい。健康で風に吹かれながら、生きていることのなつかしさにふと胸が熱くなるそんな日があってもいい」
光を浴びて 風に吹かれて・・・か、82歳になった今、考えてみると、「志」「矜持」に背筋を無理にピーンと伸ばして生きてきたような気がする。今しばらくこの詩を味わってみたい。
直木賞を受賞した松井今朝子さんの「吉原手引草」は知らないことばかり書いてあって興味深く読んだ。「伊丹屋繁斉の弁」の項に“水揚げ”について書かれている。繁斎が「一つ家に白き萩をば見たりけん」と問うと、花邑が「血を吸うて鳴く 秋の蚊ず憂し」と返えしたとある。繁斉は「男の自惚れを思い知らされた塩梅で,以来、わしは女というものが怖くなった」という。私は昔から女性が怖かった。仕事の出来る女性を尊重し、活用するのに努めた。スポニチの社長時代「マドンナ100」を作り100人の女性を事業に紙面に活用した。もちろん花邑を優遇するのは間違いない。
この夏,複本一郎さんの「俳句とエロス」(講談社現代新書)を読む。今は亡き、尊敬する横山白虹さんのもとに、恋の逃避行を試みた堀井春一郎の句が出ている。「朝ぐもり女の羞恥掌に残る」「葡萄つまむ指先夜は女の意に」。すごい句である。俳句を作り始めて7年、私にはこのような句は浮かばない。
思い悩んでいるときよく仏教詩人・坂村真民さんの「サラリ」の詩が口から出てくる。「サラリと 流してゆかん 川の如くに サラリと 忘れてゆかん 風の如くに サラリと 生きてゆかん 雲の如くに」このような境地にはなかなかなれない。詩、俳句ともによし。口ずさむだけでも気分は晴れやかになる。人生は長い。雲の如く生きてゆこう。

このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。(そのさい発行日記述をお忘れなく)
www@hb-arts.co.jp