2006年(平成18年)7月20日号

No.330

銀座一丁目新聞

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花ある風景(244)

並木 徹

「新船長の航海事件日誌に期待する」

  小説「蒼氓」で第一回芥川賞を受賞した石川達三は小説のタイトルさへ決まれば一気に書き出したと言われる。「題」に自分の書こうとする思いが込められ、その「題」にさらに触発されるからであろう。私はいつも書き出しに苦労する。テレビドラマの場合、最初の数秒で決まる。面白くないと思われたらチャンネルを代えられてしまうからである。テレビ朝日の「土曜ワイド劇場」で新しく登場した「新船長の航海事件日誌」の第一回「超豪華客船殺人航路」はそれなりに工夫してあった。脚本・柴英三郎、監督・池広一夫である。ボクシングの打ち合いのシーンで幕が開く。次にいきなり豪華客船が出てくる。その落差に驚く。それだけ好奇心が湧く。ウエルター級タイトルマッチで勝利したのは主人公の川上要一(船越英一郎)。敗れたのは親友の岸川五郎である。後でわかるのだここが物語の基点である。マットに沈み帰らぬ人なった親友の妻、岸川清見(原日出子)アームチェア・ディティクティブ(車椅子の探偵)で登場する。この人にもっと謎解きをさせたらと思うのは原日出子賀好きな女優であるからであろうか。携帯のメールのやり取りがいい。
 「いまどこ」
 「国会 議員食堂」
 「なに食べているの」
 「カレーライス」
 「誰と?」 
 「農水大臣」 
 「泰さんと、どっちが偉い?」
 「もちろん、泰さん」
 筋を通ス清廉な国会議員、上田泰三(伊藤孝雄)とスパイながら次第に泰三に惹かれてゆく水島美知(遊井亮子)のメール送受信記録である。上田泰三56歳、水島美知28歳。要一の部下で三等航海士和田蛍(木内昌子)はいう。「二人の間はラブラブです」「上田先生ほどの大物政治家が、こんな若い女性と?」の要一の質問に「齢は関係ありません」と答える。これでわかった。昨今、電車の優先席でもでもあたりかまわず夢中になってメールを打っている若い女性をよく見かける。恐らく恋人とメールを交換しているのであろう。優先席は「携帯使用禁止」になっているので時々「注意」するが無粋なことをしているわけだ。
 船上で起きた殺人事件に同じ政権党内の対立、自由貿易拡大対振興に名を借りた保護、それに利権と賄賂が絡まる。貿易会社の看板を掲げて密輸する商事会社。あっという間に1時間50分が過ぎた。後味がよかったのは脚本家の女性の描き方がなんともいえずやさしからである。美知をアフリカに旅出させ「上田泰三の恋は本物だった」と告げる。最後にこの豪華客船に書を飾りたくなった。大海人皇子の歌にいう。「むらさきの にほへる妹を 憎くあらば 人づまゆゑに われ恋ひめやも」(万葉集巻一・二一)

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