2006年(平成18年)5月20日号

No.324

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安全地帯(144)

信濃 太郎

四季のうた 風のうた

  絵・雨田光弘、文・串田孫一「四季のうた 風のうた」(藍書房・2006年4月発行)が送られてきた。スポニチ時代、雨田さんの絵の展覧会を開いたこともあり、その縁である。雨田さんの猫は絶品である。なんとも言えない優しさが滲み出ている。今回のテーマは「みんな仲良く」。表紙を含めて42枚の絵のうち15枚に楽器が描かれている。チェロ奏者でもある雨田さんは音楽が大好き人間である。作曲家の名前もハイドン、モーツァルト、ヨハン・シュトラウス、メンデルゾーン、バッハが出てくる。ピアノ、ヴァイオリン、フルート、チェロを持ち演奏する猫たちが言う。串田さんの最後のメッセージでもある(2005年7月逝去)。「いつも楽器を持って集る私たちにとっていつでも今が永遠なのです。むつかしく考えたり、考えそこねてがっかりするのが可笑しくてたまりません」と屈託がない。猫達の表情がみんな違うが生き生きしている。ネズミが大勢でヴァイオリンを演奏する絵もある。1000年も前に鳥羽僧正というえらい坊さんが「鳥獣戯画」を出し猿、蛙など103匹の動物を擬人化している。平安末期の社会風刺画。とりわけ全4巻の絵巻のすべてに賭博が見られるのはたしかに俗界への風刺であろう。この本にも麻雀をしている絵がある。4匹の猫が卓を囲む。傍にビール1本とにコップ、お銚子3本にチョコ一つ、出前の麺類のどんぶり、皿に3匹の魚、さらに1匹が食べられて骨になっている。手ぬぐい、石鹸、養毛剤の入った洗面器もおかれている。電話を受けている猫が一番勝っているのであろう。足元にたくさんの図書券が散らばっている。日頃、麻雀屋でよく見られる風景である。すこし違うのは現金でなく図書券という点であろうか。
 この本に付録としてCDをつけるとしたらハイドンの「びっくりシンフォニー」がいい。ハイドンは「交響曲の父」といわれ、数多くの傑作を残した。ウットに富む。「びっくり」は名曲である。山本直純さんに言わせると「楽団員の給料を上げるためのハイドンの一流の気のきいたストライキなのである」という。雨田さんが猫好きになったのは20年前奥さんが捨てられた子猫を拾ってきて以来というから奥さんの優しさが素晴らしい。だからこの絵もびっくりするほど猫たちが微笑ましく描かれている。画集から伝わってくる猫たちの調べはなんといっても「びっくりシンフォニー」がふさわしい。

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