2003年(平成15年)4月10日号

No.212

銀座一丁目新聞

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追悼録(127)

 ある会合(4月4日・東京九段会館)で、挨拶に立ったアサヒビール名誉顧問、中条高徳さんが科学者、アルバート・アイシュタインの言葉を引用した。
 「世界は進むだけ進んでその間、幾度も闘争が繰り返され、最後に闘争に疲れるときが来るでだろう。そのとき、世界の人類は必ず真の平和を求めて、世界の盟主をあげねばならぬ時が来るに違いない。その世界の盟主は武力や金力でなく、あらゆる国の歴史を超越した最も古く、且つ、尊い家柄でなければならぬ。世界の文化はアジアに始まって、アジアに帰り、それはアジアの高峰、日本に立ち戻らねばならぬ。我等は神に感謝する。天が我等人類に日本という国を造っておいてくれたことを」
 この言葉は大正11年11月、日本を訪問したときのものである。アイシュタイン博士は雑誌「改造」の山本実彦さんの招きで来日。11月17日から12月29日まで44日間、日本に滞在、仙台、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡で一般講演と講義を行った。もちろん、各地で大歓迎を受けたのはいうまでもない。博士は日本に来る船の中で1922年度のノーベル物理学賞受賞の知らせを聞いており、日本に好印象を持ったようである。
 中条さんはこの言葉を胸に誇りと自信を持ち「真の日本人になろう」と訴えた。
 81年前とはいえ、アイシュタインの言葉は嬉しい限りである。だが世界が闘争に疲れるときが来るのはまだまだ先のようである。現にイラク戦争が起きている。中東は極めて不安定である。サミュエル・ハンチントンは「文明の衝突と21世紀の日本」の中で「2020年には、世界で最も大きな経済力を持つ五つの国(アメリカ、ヨーロッパ、中国、日本、ロシア)が新しい世界をつくる。五つの異なる文明を持つこの新しい世界では、地域の政治は民族性による政治であり、世界政治は文明にもとずく政治である。したがって、国家間の関係はよそよそしくて冷たいものになり、激しく対立する。時折、文明の境界を越えて連合がうまれる。ともあれいくつかの冷戦が存在する世界になりそうだ」と予言しているぐらいである。
 博士は世界連邦政府の熱心な提唱者であった。力をもってする平和維持政策は核時代の今、かえって、人類を破滅をもたらすものであると固く信じていたという。考えて見れば、大正時代に博士の世界連邦政府構想の芽がはぐくまれていたといえよう。その盟主に日本を挙げた博士の期待に背かないよう日本人は誠心誠意努力せねばなるまい。
 アイシュタイン博士は昭和30年4月18日死去した。享年76歳であった。

(柳 路夫)

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