道場主今月の一言

誠の恋をするものは、みな一目で恋をする。」
ウィリアム・シェークスピア
 

銀座俳句道場 道場試合第106回決着!!  

2月の兼題は 「節分」、他、自由でした。



 選者吟

   鬼の面して熱の子が幼くなる    谷子


 節分の頃は寒くて、二歳は離れていない息子たちがよく風邪や気管支炎でダウンしていた。すでにいいおじさんになった息子たちが、幼稚園児の頃の一句。俳句は記録性も持つ。ただし、それを越えて更に…がなかなかに難しいところ。
 

 

残る寒さ老人会の品配る             韶一
 【評】「老人会」というのは、「老人」と決められた年齢以上の者たち同士の集まり。(婦人会などが世話役として加わる場合もあるが)「老人」が「老人」の世話をするという、心理的なうすら寒さ…が、「残る寒さ」で見事に伝わる。

 
蕗の薹通らぬ汽車を待ちており          有楽
 【評】「蕗の薹」で作者が立つ場所、そして「通らぬ汽車を待つ」によって、よりその場の状況が伝わってくる。早春のまだ冷たい風の中である。


 
冬埃扁平足の仁王像               亀山龍子
 【評】仁王の大きな偏平足。この把握は結構見かけることが多いが、「冬埃」が、寒さの中に立つ、筋肉隆々の脹脛までも想像させる。「春埃」や「春塵や」だと仁王の強さが消えてしまっただろう。

 


【秀 逸】

貧乏を馴らし好日梅見酒             弘子

 【評】 「貧乏を馴らし」の精神であればこその「好日」の実感。

健康によき話のみ春待つ日        照子

 【評】寄れば健康法の話ばかり、という句はしばしば見かけますが、「健康によき話のみ」は、おだやかな詠みぶりで結構でした。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)


○福は内共に棲みたし鬼も内             みどり
     三つに切れます。「共に棲みたき鬼も内」では?
○仰ぎ見る芽吹きの先に昼の月
     芝居終え「シャンハイムーン」冴返る

○鬼を打つ豆土魂(つちだま)を呼び起こし      弘子
  観音の掌を抜け春一番
     どのように大きな(例えば高崎の)観音様でも、どうも春一番が抜けるにはぴったりとしない感じ。

  節分や生まれし遠く喜寿を超え            意久子
     「節分」生まれでらっしゃるのでしょうか?「や・生れし・遠く」で関わりが解りにくくなっています。
○三男坊七人分の福は内
     頑張って「福は内」と豆を撒く三男坊。きっと家族思いのやさしい方でしょう。
  カップ替え独りコーヒー二月かな

○節分や白鵬ひとり四股を踏む            亀山龍子
     「節分」の季語の力と「ひとり」の持つ強さであろうか。翌日の「立春」だと、一句がふわふわと軽くなりすぎたであろう。今回三句共に結構でした。
○氷上のなみだ美し浅田真央
     二句共固有名詞を使った作。やはり「記録性」を思う。比べれば「白鵬」の方が勝るかと。
   
  節分や午前様なる子の帰宅              天花
  からし菜やクレーンの伸びる橋工事
     「からし菜」が中七以降とどう関わるかが見えてこない。
○春の靄錆の膨らむ門扉かな
     「春の靄」によって、古びた門扉の佇まいがやわらかく伝わる。

  節分やドコモタワーの空青く              のぼる
○豆打ちは暗き庭よりはじめたる
     「暗き庭より」が節分の頃の
○豆撒きてしばし無音の闇深く

○還暦の娘のために雛飾る               美原子
     今年は殊に心を籠めて…、の思いが伝わる。
○かじかむ手尻の下にて暖めん
     つい笑ってしまうが、ついやってしまう姿。
○まんさくの花びら伸ばし便り待つ     
     「まんさく」の長く捻じれた花弁の形を上手く把握している。ただ「のはなびら伸ばし」が今一つ。「まんさくの伸びる花びら」の方が、切れが生じてすっきりとなろうか。

○節分のこらえて鬼になる涙               二穂
     心理的な色彩濃い一句。
○雪がふる牽引の頸つるさるる
     なかなか厳しく強い一句。
     〈雪が降る牽引の頸吊るされて〉

  ゆきどけの寺の地蔵のなみだ顔

  鬼やらふ声も帰えたる国となり             有楽
     「消えたる」?
○春泥やどこまでつづく過疎の道

○節分や鬼へ園児の飴つぶて              章司
     拾っても食べられる飴が、この園では豆代わり。包み紙の色が想像出来る。
  鬼の面とれば園長福は内
○闘病の父の代役鬼やらひ
     あれこれと案じることは多いだろうが、なればこそ厄を払おうと代役は声を張る。

○節分や園児の鬼と擦れ違ふ              満子
     日本の伝統的行事を、せっせと子供たちに教えてくれるのは、今や幼稚園、保育園、そしてテレビの気象予報士さんたちのようである。
  宇宙での豆撒きはチョコ野口さん
     この一句も、濃い「記録性」。
○もくもくと力溜めをり冬木の芽

○節分会大文字山を正面に               方江
     「大文字山」が加わることで、この節分会のはんなりとした空気感がよく伝わってくる。
  住み古りて南天の実のたわわなり
  空を見る亀の目細き四温かな

  節分の悒鬱くぐり抜けにけり               韶一
     潜り抜ければ「春」です!
○幼さの残りし襟足春浅し

○節分や吾に宿りし鬼は外                竹風
     「吾に宿りし鬼は・外」と読んで下さい。
  冬のバラ「よく咲いたね」と褒め言葉
     〈冬のバラ「よく咲いたね」と褒めており〉
  雨音にやすらいでいる朝寝坊

  袋入りの出番は節分落花生               瞳夢
○水入らず阿吽で足りる冬温し
○初雪や粋がる人の姿良し
     風邪ひかれぬよう!と祈りつつ…。

○節分の宮の暗がり鬼と合ふ               あゆ
○幼日の角の屋 毀す春寒し   
     角の部屋、又は離れ家を毀すのでしょう。きっと幼い日の様々な思い出が重なる場所。子供は端っこがすきですね。「幼日」「角の屋」がいささか詰屈して読みづらい。
  紅橋の小雨もよろし梅見かな
     「紅橋」という固有名詞か、朱塗りの橋か?

  甲高い歓声あげて福は内                高風
○境内の梅に祈願の絵馬あまた
○遠山の雲の流れや日脚伸ぶ
     のどかな感触、結構です。

○節分や二つぶ三つぶ豆を食む              照子
     歳の数ほど…は卒業した齢が伝わります。
○知らぬ間にふくらみゐたり猫柳

  節分や野に点となり動く人                 明法
○一湾をちぎらんとして春疾風
     〈一湾を吹きちぎらんと春疾風〉
     「疾風」に「吹く」は躊躇うところですが、「ちぎらんとして」と「吹きちぎらんと」のリズムと語調の強さを比べてみましょう。

○裸婦像の腰豊かなり春の雨
     なかなか艶冶な一句。ただ、よく詠まれています。

○焙烙もて豆炒るが役節分会                紫微
  啓蟄や地中深くにカタコンベ
     中七以降はなかなか面白いのですが、「啓蟄」との取り合わせは、あまりにベタ付きかと。
  紅白の飛梅にしのぶ流人かな

○節分やかの人思ひ鬼は外                 悠々