道場主今月の一言

誠の恋をするものは、みな一目で恋をする。」
ウィリアム・シェークスピア
 

銀座俳句道場 道場試合第100回決着!!  

8月の兼題は 「終戦の日」、他、自由でした。



 今回の作品、重たく受け止めました。それは、想像ではなく、実感が伴ったものが大半だったからでしょう。「書き継ぐこと」「語り継ぐこと」…戦時の記憶の無い私も、6月は京都で、8月末は青森で、講演の中で、長崎の松尾あつゆきの「原爆句抄」をお伝えしてきました。
 八月、終戦、敗戦というと、この俳句道場の主の一句

   向日葵や八月十五日の恋   悠々

をいつも思います。
 「夜の秋」を実感する日がきました。夏の御疲れが出ませんように。


                                         谷 子
 

 

預かれる赤子にそひ寝終戦日        章司
 添寝した赤子の小ささ、あたたかさ。「預かれる」が一句の眼目。「畏れ」ともいえる感覚。小さな「命」を守る思いが、終戦日への思いに重なります。

 
帰るさの子と帰れぬ子盆の月      あゆ
  帰省の子のことでしょう。一人は久々に帰ってきて、又戻って行く、もう一人は帰って来られなかった。此処からは読み手の私の胸の中で拡がった思いですが、「帰れぬ子」…彼岸に居る子、との想像を刺激しました。一句に満ちた寂しさからでしょうか。

 
敗戦忌気力に缺るなかりしか        韶一
  気力充実していればあの戦争に勝ったかも、と言っているのではありません。今もって、事に当たる時、自身を鼓舞する言葉として、少年時に植えつけられた言葉が檄として起こるのでしょう。「気力」なんていう言葉から遠い青年たちの群像も、この一句の向うに透けて見えます。
 


【秀 逸】

山奥の鬼やんまぬうつと出しかな      明法

 「山奥の鬼やんま」の「オ」がよく働いています。
でっかい鬼やんまです。山の霊気まで感じさせます。
 

少年の力任せに夏を蹴る          弘子

  元気といささかの鬱屈。「少年」そのものを伝えてきました。
 

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)


  水の星いくさは絶えず終戦日            満子
   <終戦日戦は絶えず水の星>
九条もて平和維持せよ敗戦忌
   誠に誠に。与えられたものだという論がありますが、それを64年守ってきたこと、与えた国へ逆輸出すべきでしょう。

空の下みんな腑抜けて敗戦日           二穂
夏の川下着を曝す疎開の児
   水着なんかなくても、下着のままの水遊び。「曝す」がいささかの疎開児の苦さを伝えます。
  日ざかりに一陣のかぜ醉芙蓉

お揃いの帽子新し登山道              瞳夢
信仰のおやまに若者サングラス
   何だか気になる…。でも、結構行儀がよかったりして。
   余談ですが、昨年あたりから、保育園や幼稚園で、園児にサングラスを励行させるようになったとか。
   紫外線が昔とは違うので、このままだと若年性白内障のオソレありの対策とか。

九十九里無月の海に浪白し

硫黄島に果てし恩師や敗戦忌           紫微
   きっとやさしく、若い恩師だったのでしょう。
  敗戦日成人となる二日前
送り火や兄小艦の軍医長
   「小艦の軍医長」が思いを伝えます。

正座して平和を希ふ長崎忌            のぼる
終戦日神域を掃く朝の巫女
  残飯のカレーや敗戦の日を思ふ

生れてすぐ大粒の泪敗戦忌             龍子
若田さん帰還の地球夏の草
   「夏の草」がよく働いています。
  城垣の高し実石榴色付きて

日本の行く手不安や終戦日             高風
   ほんとに何処へいくのでしょう!
  ぐい飲みのビールにゆれる喉仏   
  大西日連峰の影鮮やかに      

消えることなきセピア色終戦日           照子
   「消えることなきセピア色」という把握。セピア色でもいつまでも…、と願います。
  夕風にほっと一息酔芙蓉
又一つ訃報届きぬ秋暑し

  終戦日配給思ひ米炊ぐ                あゆ
  磴担ぐ御神火盛ん瀧涼し

夾竹桃すつくと立ちて終戦の日          意久子
   「終戦日」でよろしいでしょう。
食卓にふかし芋のあり終戦の日
  十三の玉音放送家はなく

  生と死の時が決めたる敗戦忌            韶一
  敗戦忌廻し喫む煙草のほろ苦さ
   〈廻し喫みし煙草の味や敗戦忌〉

  終戦の日被爆少年みな老いぬ           竹風
震災やブルーシートの目立つ夏
草いきれ命の匂いと知りにけり

記憶のフラッシュそこで始まる終戦日       明法
  火の鳥になりたる気持秋の雲
   季語をいろいろ動かしてみてください。もっとスゴイ句になりましょう。

若き父の写真と会話終戦日           さかもとひろし
   軍服の父の写真でしょうか。
  敗戦日予科練うたって今は稀
   「今は
  森の街秋の熊本城天守閣 
   熊本城天守閣は見事な景ですが、熊本=「森の街」ですから、いささか観光CMの感あり。

  兵児帯のちょうちょ結びや終戦日         天花
ラジオ体操の出席カード八月尽
板ずりの胡瓜鮮やか雨催ひ
   「雨催い」により、胡瓜の鮮やかな色と瑞々しさがクローズアップされます。
   それだけに、「鮮やか」が必要かどうか、再考の要ありとも言えます。


  退院に靴をおろすや終戦日            美原子
お見舞いのベッドに忘れ秋扇
マヒの手の少し動きぬ秋近し

敗戦日ひとり黙して針運ぶ             みどり
復讐を誓う十二の敗戦日
  秋暑し首・膝の蝶番狂う
   〈蝶番狂う首・膝秋暑し〉

終戦の日百歳の母瞑目す              弘子
  このドレス着し人のあり原爆忌
   作者には解っていても、読者には一寸伝わり難いでしょう。

空蝉もあまた落ちおり九段杜            有楽
   〈空蝉の〉と。
山は雲館は夏霧平泉
   〈山は雲館夏霧〉と。
  漢天と詠みにし古人(ひと)を敬慕して

終戦の日母のモンペに名札あり          方江
   〈終戦日〉と。
ひぐらしの鳴きて会いたくなる夕べ
  むくげ咲く暁5時の散歩道

終戦のその日は京の万灯会            河彦
   いつも終戦記念日が8月15日〜お盆であることを思います。
  鰯雲そこまで行けば涼しいか
   もうそこまで秋がきているのでしょうが…。地上は「暑い!」
何万の「頑張れ」夏の総選挙
   選挙の句として出色です。出来れば「幾万の」と。
   当選者も落選者も事務所にこの句を貼って欲しい!
   今回の政権交代。破れるべくして破れた自民党、不安だけれど…といいつつの票を得た民主党。
   「頑張れ」は国民それぞれの悲鳴でもありました。

孫掴まり立ちの写真終戦日            萬坊
昼寝児の夢はるかなり蒙古斑
たたかれて切られて西瓜ごんごろり
   「ごんごろり」が右と左に分かれた西瓜の赤さを見せてくれます。

縫物の手を止めぬ母終戦日           章司
   「止めぬ母」何を思っているのでしょう。
   ひたすらに手を動かしつつ、口には出したく無い記憶を手繰っているのでしょうか。

  玉音放送聴かで川瀬に魚追へり

  樹海に魂忘れし敗戦日               悠々
   「忘れておりぬ」「忘れきたりし」?