道場主今月の一言

誠の恋をするものは、みな一目で恋をする。」
ウィリアム・シェークスピア
 

銀座俳句道場 道場試合第96回決着!!  

4月の兼題は 「春の夢」、他、自由で した。



 今回の兼題「春の夢」は難しかったようです。「夢」と書くと、どうしても甘くなるというのも一因かもしれません。春眠のうつらうつらした感じから離れないようにすることが大事でしょう。その点から言えば、満子、高風氏の二句は大健闘と言えます。
 予想通りに、黄金週間後一週間から十日位が危ないと思っていた新型インフルエンザが、激しい拡大を見せています。弱毒性といって安心は出来ません。治まるまで寝ている訳にもいきません。自衛〜免疫力を蓄えて〜(と言いつつ徹夜などしていてはマズイのですが)に是努めましょう! 御自愛下さい。
 

                         寺井 谷子
 

 

乃木邸の寿(す)号の厩舎花の雨          弘子
乃木邸に残る「寿(す)」と記された厩舎。馬上の大将の姿を
思ったでしょうか。花の雨が静かな舞台を包みます。

 

春の夢鉛筆削りくるる孝               章司                 章司
寡黙な亡き父上の姿。きっと、親のこのような姿が、子の人生を支えてくれるのでしょう。

 

収まらぬ思い突き抜け葱坊主            みどり
葱坊主の思い…。少年の伸びやかな希望が想像されます。


 


【秀 逸】

ほあんほあん水母は春の夢のなか    満子

現世の如き宴や春の夢         高風

指輪の跡きつく残りて春愁ひ      亀山龍子
肥満度の計算式や亀の鳴く       天花

物の怪の通る音あり竹の秋       明法

春愁や鼻の削げたる兵馬俑       紫薇

満子さんの句は水母が楽しく遊泳します。高風の句は「春の夢」の楽しさと儚さが伝わります。龍子さんの句は背後のドラマを感じさせます。天花さんの句は難しい季語を上手く使いました。明法さんの句は緑の季節の中で、黄色くなった葉の落ちる竹群の妖しさが実感されます。紫薇さんの句は「春愁」と「兵馬俑」や「埴輪」の取り合わせは多いのですが、「鼻の削げたる」によって、把握の確かさが実感を持って伝わります。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)


  北斎の筆とり教へ春の夢             萬坊
村は市にひときは高く揚雲雀
    率直な祝意。
鱗粉を摘まめばきゅると蝶の声
    いささかコワイ世界を見せてくれました。

  放鳥の朱鷺に卵や春の夢             章司
  学校に行く少年兵春の夢
    解るような解らぬような。〈春の夢学校に行く少年兵〉ならば解り易く、切ない一句

藤浪となるには足らず藤の房           満子
湖の波間に残り鴨の陣

春の夢昭和を知らぬ人の膝            有楽
天平の空より降れる塔の花
  三椏の色揺れており庭障子

  春暁や満身創痍の夢の目覚め          意久子
    〈春暁や満身創痍の夢に覚め〉
"良かったね"春日そうじの独り言つ
初桜三兄弟の出勤す

母遠くミシンの音や春の夢              あゆ
白船航く丘のベンチに春の夢
  石積まず白詰草の野川かな

暁の目覚めきれざり春の夢             のぼる
バス待つや頬をなで行く春の風
  花吹雪帽子を淡き紅に染め

  春の夢SP盤の塵拭う                亀山龍子
    この句は、兼題でない季語の方が生きるでしょう。
母の掌の小さき窪みや桜餅

シャンゼリゼそぞろ歩きや春の夢          高風
  ばらの芽ややがて愛する人の手に

久々に母現はれし春の夢               照子
ふらここにゆられ来し方思ひをり
快気膳春たけのこに貝づくし
    このように季語を重ねることで、喜びを伝えることが出来ます。

あこがれの君に出会いし春の夢            竹風
  春障子影絵となりて野鳥舞う
  給付金武士は食わぬと四月馬鹿
    「四月馬鹿」を変えると、なかなかにシビアな一句になるかと。

笑顔しか思い出せない春の夢             方江
また逢えるさよならをして春の暮れ
牡丹の芽心にはずみつけにけり

  春の夢繰り返し見る時刻表               天花
    これも「春昼の」などの方がよろしいかと。
母の日や木椅子のねじを締めなおす
    なかなか「母」も忙しいのです。力仕事をしたりして暮れる一日…。

  赤間宮平家の公達春の夢             さかもとひろし
  春の夢一瞬さめる日の出かな
薔薇の芽の今にも語らん朝未だき
    赤い薔薇の芽の瑞々しさ。薔薇愛好家のいとおしむ気持ちが伝わります。

よき予感水の流れに春の夢               みどり
  荷を解けば厨中なる木の芽の香

崖の上の能楽堂や春の夢                弘子
春愁や微熱こもりし掌

春の夢亡き人と酒の宴                  美原子
    〈亡き人と酒の宴や春の夢〉
そよ風を独りじめしてシャボン玉
  異次元の入り口見たり春眩暈
    確かに、そんな感触。

邯鄲にあやかれば良し春の夢              紫微
大福を売る堅香子の群生地
    こんな所まで…。何かしらあらけない思いを抱きますが。
    結構、買う(女性)人も居て…。


  あくびして夢も春眠さめやらず              明法
囀りの声をとどめる空のあり

春の夢正倉院に続くみち                 二穂
初夏の風に聞きたる狂詩曲
  藤咲いてあとに幾千ちさき莢 

花筏 もの想わせて ゆらゆらと             河彦
  サングラスの 女の頬に 花はらり
誰の顔 覚束なくて 春の夢
    〈誰彼の覚束なくて春の夢〉と。

春の夢三途の川へ招かれる                悠々
    まだまだ早い!と目が覚めて…。