道場主今月の一言

誠の恋をするものは、みな一目で恋をする。」
ウィリアム・シェークスピア
 

銀座俳句道場 道場試合第94回決着!!  

2月の兼題は 春寒」、他、自由でした



  またもや遅れて申し訳ありません。
  何ともバタバタと仕事に追われ、途中まで選評書いては
  又、出ごと…と続きました。
  先週末、会議で上京、上野に。開いてはいましたが、花冷えの
  中で、桜は四分程。今週末は花見で大変でしょう。
  明日は岡山県津山市の「三鬼賞」授与式。ここの城跡の桜は見
  事です。殊に夜桜が。8分程度開いているとよいのですが。
  花冷えのおかげで、長く花が楽しめそうです。
  よき「我が桜」を愛でて下さいませ。
 

                         寺井 谷子
 

 

 

新聞の明日(あした)に故紙か夕雲雀         意久子
  確かに!そして、この営為を重ねることが「新聞」の使命かと。
  「夕雲雀」御見事。

 
春寒や納棺齢九十四                   章司
  齢九十四。天寿とはいえ…。「春寒」がよく働きました。

 
火渡りの跡形もなき余寒かな              あゆ
  「火渡りの神事」の翌日か。その情景と興奮とが残っているだけに、「跡形もなき」眼前風景の静かな佇まいが齎す思い。
  「余寒」が、眼前の景を良く伝えてきます。
 


【秀 逸】

春寒やテラスに乾く鳥の糞            天花
この声でどうかと問ふや恋の猫          明法
春寒を来て東京タワーを仰ぐ           萬坊
春寒し見に覚えなき請求書            走酔
春立つやうすみどり色のチョコもらう       方江
やどかりの走る速さや浜は春          のぼる
春雪や首都震撼の軍靴の音            紫薇

「2・26」がふいに眼前に…。そして繰り返すかもしれない不安。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)


春寒や五百倍てふ正社員                 亀山龍子
   現在の雇用不安。年末を過ぎ、年度末を過ぎ…、更には株主総会の辺りがまたまた山でしょうか。
   不安と不信が重なるのが、何より重大ですね。溜息が聞こえるようです。
ズボン丈五センチ伸ばし春を待つ
鉄棒もくるくると回り桃組に
   よき句材です。 〈鉄棒をくるりと回り桃組に〉と。

春寒の休耕田の鴉かな                   高風
   春めくや乙女こだわる爪ファッション
紅白の梅に飛び交ふ番鳥

ことさらに古木ゆかしき梅の空               照子
春寒にこもり昔のタンゴ聞く
   〈春寒や籠りて昔のタンゴ聞く〉と。「に」は説明になって、一句の情感を小さくしてしまいます。
   水鳥の羽きらめきて春来る

   春寒や簑面の猿の息白し                  正巳
   悪くはありませんが、「息白し」は冬の季語として使いますので、
   「春寒」とだったら、〈箕面の猿身を寄せ合いて春寒し〉でしょうか。

   梅林の根方に杖休ませて
   「梅林の根方」というのは何やらおかしい表現です。「梅の根方」ですね。
   更には「根方」が必要かどうか。〈白梅の古木や杖を休ませて〉でも解ります。

今年又たった一輪盆の梅 
   このたった一輪の愛おしさ。

   太郎冠者しどろもどろや春寒し               瞳夢
   逃げ易き陽を追い読書浅き春
祈りいるみとりの日々や春遠し
   看病の日々の切なる思いと疲労。「春遠し」はいささか直接的です。もう一押しを。

   畦に鳶咥へたる影春寒し                   章司
春寒やベランダの鵯部屋の猫
   両者睨み合い、なのか、知らん振りなのか。「春寒」で、猫の方はひたすら丸くなって…でしょうね。

   春寒や汗の作業着脱ぎ捨てる                二穂
春寒や今日も小雨の降りやまぬ
   わが庭に春のたまもの蕗薹
   「春のたまもの」で「蕗の薹」と二重に書くより、「たまものののごと蕗の薹」と。

   冴え返るブックカバーの縞模様                天花
捨て舟に魚住みをり暖かし

   春寒し昔落人ありし里                      明法
涅槃西風大樹どよめき謡ふかな
   「謡う」の字の使用、結構です。

横町に富士顕つ朝や春寒し                  満子
   マスクより笑まふ眼居ありにけり
   「笑まふ眸のありにけり」
便り待つ寸胴ポスト冬うらら
   「寸胴ポスト」懐かしいですね。 

春寒や吾がまたぐらにねこの棲む              萬坊
   猫を飼っていると、実感。猫に気を使って、動くに動けず…。
紙漉の槽切る音や遠霞  (槽=ふね)
   「遠霞」をもう少し考えてみましょう。

春寒や最後の姉の三回忌                   紫微
   地虫出づる日の早まらん年ごとに

春寒く大病院の迷路かな                    走酔
春寒やひねもす電気紙芝居
   「テレビ」をこう訳すと、電気紙芝居にお守りされ、時間を食べられている現実への自嘲が伝わりますね。

   光降る マフラー越しに 温かく                河彦
   「マフラー越し」がよく解りません。
   独り寝の こころを夢が 温めて
   「暖か」というのは春の季語なのですが…。この一句、「独り寝」がテーマ。
   「こころを夢が温めて」なのか、「夢にこころを温めて」なのか。

すれ違う 自転車の女 春の香り 

   春寒や少し日の射すあらし山                 方江
   「嵐山」と表記を。
   師の言葉ポンと背を押す春日かな
   〈師の言葉に背を押されたる春日かな〉

   琉球の城址にひそと花菫                   のぼる
夏を呼ぶ磯ひよどりの声高く

春寒や農の営み終わりなき                   竹風
稜線を目で追い行けば寝釈迦仏
   裸木に真珠とどめて雨上がる
   裸木の雨の滴を真珠と見たのでしょうが、いささか表現が強引。

売り店の靴の看板春寒し                     あゆ
   子離れの遠き日を夜の沈丁花 
   「遠き日を・夜の」への渡り方が今一歩。

   春めきて蔵の白壁影ゆれて                   美原子
   「めきて」「ゆれて」と「て」が重ならないように。「春めきぬ」と。
   バスを待つ別れの予感春寒し
   春寒し駆け寄る君のスカート揺れ
   「春寒し」の「寒し」を再考。

荒れし胃の像におののく寒き春                 有楽
   あの朝も闇深かりし春の雪
声低し豆撒く方も鬼なれば
   結構です。

   春寒や音なくパトカーの走りゆく                 意久子
   〈春寒やパトカー音なく走りゆく〉です。
   春風にごっつぁんスイーツ芝田山
   (2月2日「NHKゆうどきネットワーク」の放映を観て)

「昇天」を告げる留守電春寒し                  みどり
キャンパスに『翼』の彫像風光る
   ひよひよの娘の母となりつぼすみれ
   「ひよひよ」だった娘さんが母となって…、段々たくましくなりましょう。

   春寒や干からびてゐる犬の糞                  弘子
裸木に凭りがうがうと哭く梢鳴く
   この一句で、「哭く」「鳴く」を重ねる必要があるのかどうか。
   「哭く梢」だけで切ってしまいましょう。
ケーキ屋の古大時計日脚伸ぶ

   酔いどれに罵詈雑言の春寒し                  悠悠
   「に」だったとしても、一句としては「の」に、そして「の」を「や」にしたいところ。