道場主今月の一言

誠の恋をするものは、みな一目で恋をする。」
ウィリアム・シェークスピア
 

銀座俳句道場 道場試合第84回決着!!  

3月の兼題は 「卒業」、他、自由でした

   「卒業」というと、すぐにこの一句が浮かぶ。昨秋九十二歳で亡くなった母の一句である。「赤飯」の作り方と母愛用の四角な三段の蒸篭を譲り受けたのは、私の結婚後であった。父の好きな赤飯を見様見真似で作るようになってからは、何かにつけて「赤飯」を蒸した。
前夜から仕込む手順が好きで、蒸し上がると重箱に入れ、その上に飾るためだけに、ベランダに南天の鉢を育てた。それは「おはぎ」作りにまで広がり、晒餡を前夜に作り、彼岸の中日には朝から、晒餡、黒胡麻、黄粉の三色おはぎを重箱に入れて運んだ。こちらは、重箱に引くのは葉蘭で、実家の裏庭から根分けして鉢に植えたものが、今も茂っている。
 この一句の「赤飯」は、次男大学卒業の折の祝いの一句。祖母としての安堵の思いも察せられる。「照り」の力である。

【評】今回の「卒業」は難しかったようです。
  「卒業」=希望と不安。そこに加えて別れの哀しみ。この三つを
 ストレートに言ってしまうと、季語解説になってしまいます。
 本意や本情をきちんと押さえた上で書く、ということを心がけましょう。    (谷子)

 

    何ら関わりのないことが、一句の中で出会うと面白い効果を生みます。
  広い口の青磁の花瓶、立派な大きなものと想像されます。沢山の花を活けて、演壇の脇に置かれているのでしょう。緊張の卒業式が始まります。
    これは小学校でしょうか(この頃の小学校六年生ともなると、もっと違う基準が在りそうで…)もしくは幼稚園でしょうか。どちらにしても、歌も絵も上手でなくてもたいしたことではありません。きっと、もっと大事なことを学んだのでしょうから。
       福めでたい卒業ですが、それと同時に、この産土を後にする子ばかり。美しき故郷と、それだけでは
   足りない現実。「卒業歌」が誠に巧みに働きました。「卒業す」だったら、上位にはなりません。

【入 選】

村あげてたった一人の卒園式    正巳

「村あげて」の「あげて」、たった一人の卒園児への期待と愛情が伝わってきます。

制服の踝の出て卒業子       亀山龍子

背がのびたのですね。逞しくなって…。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

晴れ着きて子等と唱ふは卒業歌              竹風
断食で死するがよろし涅槃西風
   ガンダーラ仏「断食の仏陀」を思い起こした。涅槃西風が作者に齎した思いであろう。
 苺狩り蔕より食べて甘かりき 

卒業す紀元は二千六百年                 瞳夢
   私の六歳で亡くなった姉がやはり昭和十五年紀元二千六百年の生まれであった。四才違いで記憶に無いが、似た齢の「紀子」さんと聞くと「ア」と姉の面影を重ねる。「卒業」であるから、それより一回り年上であろうか。八十歳を数えられるのか?
夭折の母似の俤雛飾る
 平成のロボット麦を踏んでおる 

 羊歯揺れて朝の光に春の水                正巳
   「羊歯揺れて朝の光や春の水」
春ごたつ食べるに惜しき京の菓子
   京の雅な菓子。あたたかく静かなたたずまいの部屋。

廃れゆく校舎みがきて卒業す               内藤吐詩朗
   「みがきて」がよろしいですね。
税申告の手順謎めき蜷の道
   「謎めき」「蜷の道」が少しくっつき過ぎの感。しかし、ホントウに税の仕組みは解り難いですね。
卒業生へ「旅立ちの日に」大合唱

武蔵野の天地あまねく弥生かな              高風
 卒業に未来の不安隠しえず      
 三月の流れる雲に夢託す       
   「三月の流れる雲や夢託す」でしょうか。
    

空襲の中卒業の今昔                   照子
   たかだかまだ60数年しか経ってないのですね。沢山書いてください。
弥生晴れ巣立ちゆく子等まぶしけれ  
 スカーフのそよぐ胸元風光る

 電波塔また一つ増え 囀れり             あゆ
焼け失せし戦の日あり雛箪笥 

淡々と卒業生を送りたり               山野いぶき
 引越しをしてゆく友に春の風
   「引越しの友を見送る春の風」とも。
浴室のタイルも少し春めきぬ

隣家と朝のあいさつ春隣                意久子
卒業の孫の手に新種チューリップ
 頬よするそのぬくもりや雛の後(妹が3月4日に永眠しました)
   お辛うございました。お悔やみ申し上げます。
    「雛の日を越えて逝きしと知らされし   谷子」


 花びらを 褥(しとね)にしばし 昼寝して        河彦
  早咲きの 桜に出遭い 朝光る
    「朝光る」が落ち着きません。
    <早咲きの桜に出会う朝日光(あさひかげ)>

さくら背に 天女のヴィオロン  天満敦子 
     <天満敦子ヴィオロン天女桜満つ>

分校閉づたったひとりの卒業子              亀山龍子
春寒や老猫の背の尖りをり 
    我が家の駄猫4匹。皆後期高齢ですが、19歳の真っ白い雄が(美しいので名前はミワアキヒロ)この句のごとく。化ける手前の感があります。

 卒園や親より露語をなめらかに              章司
卒業や豚小屋掃除最後なる
 はや九年オープンカレッジ修了証書

寄せ書に似顔絵描き卒業す                のぼる
花壇整へ日比谷公園風光る
桜美し世の不景気に関らはず
    誠にまことに。

春の風邪いびつな蔓の鉢カバー              天花
 花満開茅葺門の開けらるる

靴下の白きが背伸び卒業子              明法
   「背伸び」を推敲されるともっとよくなりましょう。
 雨上がりワイパァで拭う春の星
   <ワイパーで拭い春星輝かす>で、雨後は解るかと。
 海見えて列弾んで伸び遠足児
   <海見えて遠足の列弾みおり>

 卒業を 幾たびも経し 早や老年            姥懐
 本願寺 分派の謎解く 春の雷
 春光や 唄うABCの キッズ塾
    <ABCの歌春光のキッズ塾>

 手水鉢に落椿一つ別世界              さかもとひろし
 花人になる日待遠し赤ワイン
 卒業子半世紀集う大観峰 
    <大観峰に半世紀後の卒業子>でしょうか。

幼なくて友と別れし卒業式                  二穂
盛りあがる力を放つ櫻かな
   <盛り上がり力を放つ櫻かな>
屋に満つ香や一枝の沈丁花 

卒業歌うたわぬ一人石になる                みどり
 目を病めば花々みなかすみ草
遅桜会いましょうよと弾む声
   いいですね。「遅桜」が落ち着いた年齢と関係を伝えます。

廃校の最後の校歌卒業す                  弘子
 春昼やじわりと麻酔効きそむる
花曇のたりのったり飛行船

花李新聞配る幼な顔                    美原子
きのめ摘み室に匂いを連れて入る
落椿を集めて紅の墓とする
   <落椿集めて紅の墓とする>と。

 一抹の不安を抱き卒業す                   満子
持ち味はそれぞれでよしクロッカス
 息災を祈り雛を納めけり

紙筒の卒業証書母の手へ                   萬坊
 雛かざる母背負ひきし日のままに

我は問う恋の卒業ありやなし                  悠々
   何時までも何かに恋をしていたいものです!

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