道場主今月の一言

千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす。」
宮本武蔵
 

銀座俳句道場 道場試合第73回決着!!  

4月の兼題は 「春惜しむ」、他、自由でした。   

 四月十八日、東京から戻って数日三日程して、終わりがけのインフルエンザに捕まりました。
高熱の後(タミフル飲みました)、食欲全く無く、十日程静養。数日頑張ったら、次いで扁桃炎から気管支炎で、結局小一月ダウンしました。まだ咳が止まらずにおります。明日より上京、翌日には北上市での「詩歌文学館賞」授与式です。(俳句の選考委員で)これで麻疹に…と案じていたら、齢を考えろ!と言われました。考えるからこそ抗体の減少が心配ナノデスガ。
という訳で、又もやの遅延のお詫びまで。  (谷子)

 なかなか味のある一句。(するめだから、という意味ではアリマセン)
「春惜しむ」とせず、「春終わる」という季語で情感を削ったことも成功の要素。
 
  京都、永観堂の「見返り阿弥陀」は人間の思いを受け止めるような阿弥陀仏像ですね。
   船の姿の見えない港。春の海の広がりが、「春愁」の感覚をよく伝えてきます。
 

【入 選】

春惜しむ水琴窟の傍に居て   内藤吐詩朗

卵割る音のしあわせ山笑ふ   よし子
春惜しむ炉座をゆき交ふ大徳利   弘子
早白猫の長閑な悟り塀の上   瞳夢
春惜しむ嫁ぎゆく娘のほそき首   みどり
それぞれに、季語の本情をしっかりと理解されています。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

  牡丹あふれ緑の指(グリーンサム〉もつ友の庭   みどり
誕生日少しの未来に春の夢


幹のぼる水音聞かむ撫若葉   弘子
 谷戸の闇くぎづけにして胡蝶蘭あかり


ミルクテイーカップに満たしリラの冷え   薫子
春宵の岩黒ぐろと海にかな


天命は知らず湯宿に春惜しむ   瞳夢
禁猟の赤き立札雉走る


 職退きぬ今年は別や春惜しむ  花子
タンポポや大家族あり独り居も
    群れ咲くたんぽぽ、一輪だけ離れて咲くたんぽぽ、それぞれのたたずまいが伝わります。
背伸びする初夏のフェリーのデッキにて
    元気のよい一句。明るい声が聞えるようです。


春かぜや散歩坂道「イチニ イチニ」   意久子
ストーブを消して灯す弥生半
    〈ストーブを消しては点す弥生尽〉でしょうか。
晩酌のおぼえて独り春惜しむ
    〈晩酌を覚えて独り春惜しむ〉


 流木にどっかり座り春惜しむ   方江
 春の波プリズムいうに煌めきて


 時は行く飛ばしまし今春惜しむ   竹雄
    中七がいささか難解。「飛ばしませ」ならば…。
又来るとしぐさ残して鳥帰る
 葉桜の埋もれて山の緑かな


母の忌も昨日となりて春惜しむ   正巳
 この山の店にも並ぶ蓬餅
点滴もゆっくり落ちて朧月
    〈点滴のゆっくり落ちて朧月〉


惜春の薬草透くるガラス瓶   天花
胡麻和えのクレソン島の夜の永し
道草して島の一年坊主かな
    伸び伸びと可愛い一年生。つい頭をくるくる撫でたくなります。


 惜春や妻の袷の掛けしまま   姥懐
    〈妻の袷掛かりしままに春惜しむ〉
 春惜しむ遅れし苗を手短に
    「手短」を再考。
 春耕や国道の土トラクター
    〈春耕やトラクターの土国道に〉でしょうか。


惜春や花の図鑑をひもときて   のぼる
 竹とんぼめきて五弁の落花かな


嬰生まる春惜しむ閑なかりけり   満子
    誠に誠に。おめでとう存じました。
つぼすみれ歩道の隙にほほほのほ
 栗の木の股を居場所とそみれ草
    「すみれ草」ですね。


 朗らかや春惜しみつつ帰任の子   洋光
開校は明治の半ば緑立っ
    ここでの「緑立つ」は巧い季語です。
 残る花藩祖の廟は頂きに


 春惜しむ人や篠笛吹きやまず   章司
村上華岳の裸婦図に春を惜しみけり
    華岳好きな画家です。いささか下がり気味の線が思われます。
ともる灯の浅草六区春惜しむ


リフト乗る足を遊ばせ春惜しむ   亀山竜子
    〈春惜しむリフトに足を遊ばせて〉
 瀬戸凪て明石大橋鳥帰る
 菜の花や肩車の子見え隠れ


骨あげの頬のほてりや里桜   内藤吐詩朗
逝く人へ来いよと聞こゆ揚雲雀
    作品揃っていました。


惜春や卆壽が姥の軸仕あぐ   二穂
あい集いあい別れゆき花筏
    〈相集い相別れゆき花筏〉
 街中の専用農地柿若葉


 花人の母親となりてみどりごと   さかもとひろし
 プシュケー(プシケ)には蝶の羽有り心あり
 母となりていずこかへ消えし春愁い
    現実としてあり得ることですが、どうも中七が今一つかと。


 懐メロの大工鼻歌春暑し   美原子
    「懐メロ」「大工」「鼻歌」の置き場、なかなか難しいですね。
神田川遺影に見せる花見かな
縄祓いくぐりて村の春の泥


 もう少し悩みおいといて春惜しむ   明法
    〈悩みまだ身近かにおきて春惜しむ〉
 鍬かつぎ春の日も背中に父帰る
    〈鍬かつぎ春日を背ナに父戻る>
鐙にまた湿りの影や若葉かな
    〈磴にまた湿りの影や椎若葉〉
    切れ字を二つは、避けましょう。


春惜しむ父の遺愛の硯箱   よし子
孫の名は悠平とつく若葉風
    悠平クンにとって、何よりよき寿ぎの一句となりましょう。


 春惜しむ奥つ城深く納めけり   紫微
 母の日や金婚式の妻と居て
 花豌豆今に飛び立つ気配あり
    〈花豌豆今日は飛び立つ気配あり〉


春惜しむ版画の鉄帙の子鉤かな   萬坊
    風雅な一句。
なにもかも卒業出来ず花辛夷
 二個三個わけて包むや桜餅


ゆく春は昭和みかどの苑の空   有楽
 銀座より九段に春を移しけり
 靖国の一雨ごとの濃葉桜
    「濃葉桜」コハザクラという読みは如何かと。


港から出て行く船や春惜しむ   山野いぶき
何もかも忘れていたい春の雨
    以上二句結構です。
大声で夫婦喧嘩や朧月
    なかなかに勇ましい!「朧月」がいささか不釣合いのようでもあり、喧嘩の後の仲直りを感じさせもし…。


 仕事せし銀座が十年春惜しむ   悠々
    〈仕事せし銀座十年春惜しむ〉
  銀座では十年の意味が篭っているのは解りますが、「銀座が」と「が」が付くことで、反って銀座での十年の歳月の印象が薄れます。

このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。
www@hb-arts.co.jp