道場主今月の一言

千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす。」
宮本武蔵
 

銀座俳句道場 道場試合第71回決着!!  

2月の兼題は 「早春」、他、自由でした

 暖冬というより異常気象の冬、早、桜も開花宣言、と思っていると寒波襲来。
地球が悲鳴をあげているようです。
 御自愛の上の、ご清吟を。   (谷子)

 早春の活き活きとした感覚が、「二拍子」によって、上手く書かれています。
 
 〈「お母ちゃん」と呼ばれた気配春の雨〉でしょう。
 そう感じたその一瞬、ふいに時間が遡って感じられたでしょう。
 「春の雨」のやさしさが、明るくもしみじみと伝わります。
 
  〈パンジーや風向計の影めぐる〉と書いた方がよいでしょう。
   「回る(まわる)」とも読めますので。
   なかなか面白い句でした。じんわりと暖かくなっていく気配が伝わります。
   「温もる」とは微妙に違いますが、「暖か」の傍題として「温し」があること
   知識としてご承知おきください。
 

【入 選】

着水の拙き鴨の混ざりおり    洋光
  「拙き鴨」が、そこらを騒がせたり、他の鳥を追い立てられたようにも見えたものでしょう。。

墓石に逢の一文字風光る     薫子
墓石に彫られた「逢」一字は、「いずれ皆逢う」の思いでしょうか。
まな板のとうふ傾ぎて春隣    萬坊
真っ白な豆腐の質感、いささかの傾ぎが、「春隣」と微妙に関わって面白い一句。
早春や鴨にむかひて鴨のこゑ     章司
「鴨にむかひて鴨のこゑ」は面白いフレーズです。「鴨」は冬の季語ですが、引くか、残るか、そんなことを語り合っているような感じを受けるのも「早春」在ればこそ。
早春の 処方箋一行 減りにけり        姥懐
薄紙を剥がすように、と言う言葉があるが、幾種類も処方されていた薬が一種類減ったのである。よき春の日々がすぐ其処まで。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

 早春の野川に調べ戻りきし           洋光
  いささか早春の景として説明の感あり。
 泡立ちし心静むる春の月
   心の方を修飾していても、「泡立つ」という動詞は、「春の月」を導き出し難いです。
      
 春めきて園児歌ひて手をつなぎ                  竜子
    〈春めくや園児唄ひて手をつなぎ〉と。
 その群れの一羽の白鳥バレリーナ
着脹れて啄む鳥を見る日がな
   「日がな」でしょうか、「日かな」でしょうか?「日がな」だと一日中ということになります。
   「着脹れ」と「啄む鳥を見る」は結構です。

 あれこれと 想い出させて 白い梅       河彦
 早春に 高砂を聞く 矢来能
  〈早春や高砂を聞く矢来能〉でしょう。
春一番 心の乱れ 知るごとく

モネ描く淡きむらさき春初め          薫子
 初場所や宙に舞いたる塩の花
 
 春の床 切り抜き片手に眠りをり         意久子
   幼子の姿でしょうが、「切り抜き」がどうもその姿を明確に
   するのを邪魔しています。
 ご褒美の カフェカプチーノに手を添えて
   何のご褒美なのか。多分幼い子へのご褒美なのでしょうが…。

早春の光の一滴山清水           明法
春の雨空膨らませあがるかな
  二句共に、しっかり書けています。輝く空気感とでも言うものがあります。 
 梅の花鵯(ひよ)がきたよと妻の声

浅き春 軍国乙女でありし日々              瞳夢
ちり鍋にひとり遅れて帰る父
 裸木の空をひと掃き清めけり 
    「裸木」よりも、もう少し、「掃く」感触を伝えるものを。

早春の 色映し出す 五色沼               花子
堰越えて 奔流となる 春の水
   もう一息。〈堰越えて奔りはじめし春の水〉と。
 着水も 翔び立つもあり 水温む
   「水鳥」と書きたくないのは解りますが、省略が上手くいってません。

 早春の詣づる径の会釈かな            だりあ
 寒明やスカーフ選ぶ棚のまへ
  二句共、いささか詠む景が小振り過ぎました。日常の小振りな景ならば尚、
  視線を強く、又、深くすることで、凡々たる中から不思議なものも見えてきましょう。
天平のほとけ金色春時雨
  美しい一句です。

早春の空へ向かって丘上る             あゆ
菜の花のなだるる先に海と空   
 広びろと田の展け来し麦青む 
   「展け来し」で切れるので、「麦青む」が取って付けたようになります。
    「青き麦畑」なのでしょう。

角曲り来し早春の箒売り              よし子
   「早春」の使い方、お上手でした。
 葱坊主絵本聞く子の膝ゆるぶ
   「膝ゆるぶ」は大人の姿勢への措辞。もう少し直截に。
師も友も老いて母校の春の雨

 早春や温室ははや四十五度              二穂
 ガラスごし春の日差しの蘭たけなわ
   歳時記では「蘭」が秋の項に入っいることを知っておられるので、
  「春の日差し」を季語として使われたのでしょう。ただ、「春の日差しの」
  の「の」で繋げるのは一考を要します。
蕗の薹生徒の声の通りみち
  「通りみち」を、もう少し考えてみて下さい。

春はじめ杏仁豆腐の口あたり            水の部屋
絵馬の馬はね天井のかぎろへり

 春立つやおニューのズックの赤いひも        萬坊
   「おニュー」という、いわば俗語が活き活きとしてはいますが、
   「おニューのズックの」となると一寸しつこい感じがします。
三椏の四方八方咲きにけり
   「三、四、八」はこれもいささか…。確かにこの通りなのですが。

 春の雨路面にマラソン走る影                     章司
    「路面」「マラソン」「走る」「影」と、いささか丁寧過ぎました。
    雨が降っているのに、影が映るというのは日照雨のような感じなのでしょうか。それとも路面    の水溜りなどに姿が映っては過ぎるということなのでしょうか?
早春や八羽の鴨の神田川
    「鴨」は冬の季語ですが、そろそろ引くのか、残るのか?そんな微妙な時期かと。

本郷の雨にけぶりて春浅し                      のぼる?
 受験期や天神様に絵馬溢れ
   いささか当たり前過ぎました。
 早春を都電悠々走りけり
   「早春」と「悠々走る」の感覚がどうも、いわゆる不具合です。

早春のマラソンうねりスタートす          竹雄
   「東京マラソン」ですね。
 裸木に真珠とどめて雨上がる
   悪くはありませんが、どうもメルヘンチィックで…。
 散髪を終えて爽快春隣
  「爽快」を再考。

 探梅や 天気図北上 梅マーク                    姥懐
  「探梅」「梅マーク」という重なりを整理しましょう。
反逆す 膝に和解の 春の雷
   〈反逆の膝に和解の春の雷〉
   〈反逆や膝に和解の春の雷〉

早春や娘と参る水天宮              満子
  よき兆しか、又は願掛けか。「娘と」がよく働いています。
ふと淋し雨に打たるる冬薔薇

新しき春風吹けよ美し国             有楽
薄氷をわけて一番船が発ち
   「をわけて」「発ち」を再考されると、もっときっぱりとした一句になるかと。
 天国にメール送るや二月尽
   何故「二月尽」なのか。「春立つ日」ではいけないのか…が明確になると
   よいのですが。

 早春や飛行機雲を作り行く            天花
   「作り行く」は飛行機に乗っていて…と解されます。
四温かなチョークで書きし新メニュー
 オムレツのふんわり雛の日の近し

高架線ビル早春の陽を浴びて                    紫微
 朧月そびゆる城のシルエット
氷雨つき怒涛の流れ駆け抜ける(東京マラソン)
   「東京マラソン」のよい記録となりましょう。
 早春の光の中の朝寝かな            山野いぶき
   「早春」「朝寝」共に季語です。
水仙の踏まれてもなお咲きにけり
白梅の花越しに見る空の碧
   「見る」は必要ありません。削ることで、学ぶこと多々かと。

 春の月脳のCT無事知らせ                美原子
     〈脳のCT無事の知らせや春の月〉と。ぼんやりした春の月と「脳」が、そこはかとなく関わってくるでしょう。
 園庭は閉められており梅の香
     〈梅ケ香になお園庭の閉ざされて〉
鳥帰る言葉足りなき悔い残し
   〈鳥帰る言葉足らざる悔い残し〉

 早春の夕日やわらか歯痛止む              みどり
はこべ摘む友は小鳥に我は夕餉に
    楽しい一句。  
公園に小太鼓響く春の空

 早春の木々縫ひ渡る金三日月             弘子
    「縫ひ渡る」を再考。
言い負かし砂かみおりぬ春一番
 ふくよかな腰観音の春の宵
  〈ふくよかな観音の腰春の宵〉と。

早春の土手より聞こゆハーモニカ             方江
 ろう梅の雨にしづまるかをりかな
    〈臘梅の雨にしずもる香りかな〉です。

地平線夕日大きく二月尽                さかもとひろし
 船弁慶知盛奮闘春の海
    「奮闘」がどうも今ひとつです。「碇知盛」ですね。
携帯と笑いつつ行く春の人
   今や「携帯」(ケータイと表記するのでしょうか)と「同行二人」現象。

 早春や氷河く崩れてスローモー              正巳
 スーパーの野菜売り場に蕗のとう
麦踏やズックを草履に履き替えて
   鼻緒を指に挟んでの感覚が伝わってきます。

 置き去りし子の死も知らでスノボ母            悠々

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