道場主今月の一言

道の道とすべきは常の道にあらず。名の名とすべきは常の名にあらず。」
老子(『老子道徳教』)

銀座俳句道場 道場試合第66回決着!!  

9月の兼題は 「九月場所(秋場所)」、あと2題は自由でした

 またもや平蜘蛛状態でお詫びせねばなりません。
何回も選の途中までしては、時間が取れずに遅くなりました。
ただただお許しの程。
もう十月も半ば過ぎなのに…と気持ちが悪いような暑さでしたが、
一気に冷え込んできました。くれぐれのご自愛を。     (谷子)

 「野分」と「青磁の皿」の取り合わせのみごとさをしっかり繋いでいるのは、「深きかな」の把握です。
 
  愛子様相撲見物は数句出ていましたが、この一句の中七以降の強さ結構でした。問題は「や」「かな」の重なりですが、このままの方がよいかと手を入れません。
  「九月場所」というような暮らしの季語は、そこでどうしたこうした、となりがちです。カメラで言えば「引く」ことで、一句を大きくしました。
 
 

【入 選】

雄鶏の秋風待ちて進みたり         萬坊

白よりも紅の寂しき曼珠沙華        あゆ

駅へゆくひとりは新序九月場所       章司

 秋風の中の「雄鶏」の頚を立てた姿、紅白の曼珠沙華の対比、「まわし」一本を風呂敷に包んでの童顔の新序、それぞれしっかりと書かれていて魅力的でした。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

九月場所新横綱は生まれまじ          竹雄  
 連敗のあわれ大関九月場所
 介護する愛はオムツか敬老日
   いささかというか、ずっぷりと切ない。

 平成の猛虎の席巻大相撲                    瞳夢
もつれいて ほどけて散りぬ赤蜻蛉
 高揚を秘めてのやまの吾亦紅
     上五から中七にかけて、言葉が走り過ぎています。
     「やま」が「山」ならば
       〈山の気の濃き一所吾亦紅〉などと。


 秋場所や 桟敷の熱気 収まらず        花子
 初秋の 小さな吐息 腕に触れ
    「小さな吐息」がどういう状況なのか、いまひとつ解り難いです。
    「腕に」なので、抱きかかえているか、手をひいている小さな子のものか、それとも男女か?

秋祭り 神主好む 洋酒かな

朝顔の咲くけふ年金時給者に                   竜子
 引落とし髻崩れ負け力士
   リズムを整えましょう。
  〈引落しに髷の崩れし負け力士〉

二十四色のえんぴつ広げ花野かな

 葉も落ちて一つ残りし秋茄子                     正巳
    「○○して○○した」という書き方は。上手くいくと面白い句が出来ますが、作者の思いほどには伝わり難いです 。
 たそがれて薄の原を下りにけり
    こちらは、秋茄子より情感があります

狐狸庵の逝きて十年秋澄めり          洋光
 木犀の香を頼り来よとメール打つ
   中七が上手く働いていません。

 おかっぱの貴賓迎えて九月場所          あゆ
   正巳さんの句を参考にされてください。
 降る星に ビル屋上の虫しぐれ   

呼び出しの声ろうろうと秋相撲          薫子
 湯上りのほてり鎮めりちちろ虫
湯の川の音を枕に夜長し

 秋場所果つ深川に部屋ひとつ増ゆ         水の部屋
   「果つ」と必要かどうか。
   〈秋場所や深川に部屋ひとつ増ゆ〉

 樹を採って大鋸屑散らす秋日和
   〈伐って〉でしょうか。
川風に褪せ深秋の日章旗

綱取りの心技未だし九月場所           のぼる
やんま来て朝のガラス戸叩きけり
 日に映えて仁王の視野に稲架襖
    場所がきちんと想像出来て、悪くない一句なのですが、「視野」が気になります。
    〈○○の(時代や作者を入れてみても)の仁王に照りぬ稲架襖〉

 
 秋場所や幼子何やら握り締め            天花
秋蝶や閉ざされている閻魔堂

 愛子さまの笑顔弾ける九月場所           満子
     これはこれで結構なのですが、同じ句座に正巳さんのがあると、残念ながら…ということです。
コスプレや歩行者天国秋暑し
    コスプレの女の子に、駅やホテルのトイレなど、狭い空間で出くわすと、異次元に迷い込んだような感じです。歩 行者天国ならば、まだ「見る」余裕がありますね。
  ほむらかと畦走りたる曼珠沙華
     俳句は断定です。「かと」と遠慮しないで下さい。
     中七以降の勢いは結構ですので、上五〈炎の如く〉でも〈蒼天へ〉でも。

親方もとぼとぼ帰る九月場所            有楽
     つい笑いました。なんだかあまり上位の力士の居ない
     小さな部屋の親方、を想像する方が、一句の味が出るようです。

 横町は寿司屋カレー屋赤のまま
 桜田の門白々と曼珠沙華

 九月場所はや夕暮れて太鼓かな           二穂
 病室の眼下に緑秋の雨
    〈病室より瞰ている秋の雨の街〉
まっ黒な左肺の写真敗戦忌
     胸が痛くなります。ただ、「黒」でしょうか、と気になるのですが。
     レントゲンだと「白」なのでは、などと思いますが。


秋場所や幟はたはた天を突く            萬坊
 鬼灯や尻に砂付け売られいる
    「付け」の意図がどうも今ひとつ。わざわざ「付け」てるようで。
       
 秋場所の館の扉越しの空                章司
慣れつことなりたる嘘や鳳仙花
      「鳳仙花」上手く嵌りました。

 子の遊ぶ声もなくなり九月場所             方江
秋に入るもうすてようか母子手帖
      捨てないで手渡してください。
 うがい薬ほのむらさきや涼新た
     いい句です。「ほの」という接頭語と「涼新た」の感慨がいささか
     重なりますので、〈むらさきのうがい薬や涼新た〉でよろしいです。


 秋場所や並びしこけしの艶増せり       あきのり 
     「秋場所」と「こけし」の関係がいまひとつ離れすぎてるようです。
 運動会午後に向かひて母の決意
      午後にはお母さんの出番があるのでしょうか?
虫の音のひたひた寄せて昏む夜
     「昏む夜」ではなく「深む夜」でしょうか。

秋場所をひとり楽しむ母であり         山野いぶき
パソコンを閉じれば秋の声がする
 雨上がり露がほほえみかけてくる
    秋の雨上がりなのでしょうが、この場合、この「露」は季語の「露」として働くかどうか。
    
 九月場所国技といふもおこがまし                  紫微
     難しいところですね。「柔道」もそうでしたが、「相撲」も世界的になったといえば言える…のかと。 何時金 髪の大銀杏を結った横綱が出現するでしょうか。
月天心蕪村の句など口ずさみ
 日を追ひて色鮮やかに蛍草
      「日を追ひて」がどうも今ひとつです。
      〈昨日より今日なほ濃かり蛍草〉でしょうか。


水辺にて哲学する亀秋の風            さかもとひろし
    忙しいと「来世は猫に」と思ってましたが、「亀」の方がいいようですね。
 谷川の上へ一直線黒い蝶
    「谷川の上」は「谷川へ」で。
 秋薔薇に陽の集まりて黄昏れる
    〈黄昏の陽の集まりて秋薔薇〉と。
            
 秋めけり日がな一日草木染             よしこ
 古寺の縁起聞く時木の実落つ 
     〈木の実落つ古寺の縁起を聞きをれば〉とも。

 秋場所や 碧眼ハンサム 勝名乗り                姥懐
 コーヒーの 寄添うベンチ 草紅葉
     コーヒーが寄り添ってるみたいです。
     「コーヒー」も「寄添う」のも「ベンチ」も必要なのでしょうが、少し間引きをしてください。
     〈缶コーヒー手に並びをり草紅葉〉 

 外人の 訛で愛でる 秋桜 

 青い目の故郷はるか九月場所           だりあ
 伝統の結婚衣裳椿の実
     何処の国のかが解る手掛かりは季語に託されます。これでは一寸わかり難い。
 曼珠沙華真っ正面に向きあひぬ 
       何かに対してでしょうが、これでは曼珠沙華と向き合ってるとも取れます。
       〈真直ぐに向き合うと決め曼珠沙華〉と。


剪定のハサミの音や秋高し                      美原子
 着納めの単衣たたみし藍の香
      〈着納めの単衣の藍の香を畳む〉
 半襟のかける手間たのしちちろ虫
    〈半襟を掛けるも楽しちちろ虫〉

 九月場所になにやらメモの愛子さま                 意久子
     お可愛いかったですね。
     「に」は削っても大丈夫です。


 少年の目の吊り上がり草相撲                    みどり
露草のその瑠璃にあう墓めぐり
夕焼の空に観覧車ひとを待つ
        〈夕焼の空に人待つ観覧車〉です。

白鵬に厚き人垣九月場所                      弘子
    白鵬は贔屓です。久しぶりに腰の据わったよい形の相撲を楽しめます。
 曼珠沙華の入江に佇ちて見はるかす
    短歌の上の句としてはよいかと。下の七七を引っ張ってきたがります。
声明の朗々として秋燈下
    声明は朗々としていますから、出来れば中七を再考してみてください。
    弘子さんならお出来になりましょう。


秋場所や総理杯の重きかな                     悠々
   〈総理大臣杯の重さも秋の場所〉とすると、安倍さんへの一句になりましょうか。 

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