道場主今月の一言

道の道とすべきは常の道にあらず。名の名とすべきは常の名にあらず。」
老子(『老子道徳教』)

銀座俳句道場 道場試合第63回決着!!  

6月の兼題は 「時の日」、あと2題は自由でした

  今回は、私の句ではなく、横山房子の一句を。

 
 この句の新し味や、よろしさは、文章ではなかなか言い表せないのですが、上りと下りがクロスされているエスカレーターで行き逢い、すれ違う感覚は、何か「時間」や「時空」を感じさせます。「時の日や」ではなく、「時の日の」である味わいが齎すものでもありましょう。
 
 一気の猛暑、くれぐれのご自愛を。        (谷子)

 面白い一句でした。「勾玉」というものを磨く男の存在は、「時の日」の中で、はるかな時空から現れたようにも思われます。
  このような一句に会うと、元気が出ます!「の」は削ってください。
 
  海外旅行から帰ったご夫婦像。充足感といささかの草臥れの感が上手く伝わります。
  孫俳句は甘いばかり、といわれますが、こうまで幸せそうだと、読者も微笑みながら幸せになります。
 

【入 選】

地球儀の傾いでをりし梅雨最中    水の部屋

時の日や長生きの価値考える     有楽

横町に豆腐呼ぶ声柿の花      紫微

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

 時の日や開店の文字黒々と            方江
時の日やローマ数字の時計台
子のこえがゆく六月の太鼓橋
  「こえ」は「声」と。

 万年の時も止まりぬ鍾乳洞         正己
 一瞬の舞いも止まりて月見草
さくらんぼ麦藁帽が弾み行く
  「さくらんぼ」と「麦藁帽」は季語がダブリますが、このままでよろしいでしょう。

蝶の如猫草叢より舞い上り                      龍子
 ギプス取る手に白桃の瑞々し
  〈ギプス取れたる手に白桃の瑞々し〉と。
時の日や散歩の夫はソクラテス
  
 時の日や子にローマよりケータイコール               章司
 時の日の頭脳体操砂時計
麦秋の雨の一日も嵯峨野かな
  〈麦秋の雨の一日の嵯峨野かな〉と。

 時の日の 時を駅まで?迂回バス           あゆ
草笛の 今朝は聞えぬ 散歩径    
 蜘蛛の囲に生きる切なさ見たりけり

ふるさとの 初夏の空気を 深呼吸         河彦
蛍狩り 光の下に 影ふたつ
 またひとつ 年齢(とし)を重ねて 桜桃忌

 藤十郎歌舞伎役者今七変化               さかもとひろし
 あじさい花七転び八起き今生きる
   〈紫陽花の色変わりゆき今生きる〉と。
 時の日の夜行列車高らかに
  
 時の日や大師の彫りし梵字塔               よし子
聞き覚えある声のして四葩かな
飛ぶことが大好きらしい初燕

時の日のあの世へ手紙したためん           だりあ
葉より揺れ花びら揺るる立葵
 飛行機の赤い尾翼や雲の峰

時の日の 振り向く癖の ありにけり              姥懐
 儲けなど 酸塊の実ほど 小商
 桑の実の 爪まで赤き 少年期
    〈桑の実に爪染めたるも少年期〉と。

 時の日や過ぎたる日々に向かいあう?         二穂
 紫陽花や木造電車明治村
  〈明治村の木造電車濃紫陽花〉
棚田植う雨に煙れる武甲山

時の日は母の忌日や香を焚く              のぼる
十薬や隣の猫ののっそりと
 明易や推理小説読み耽り

時の日のチャペルの鐘の響きおり         山野いぶき
久々の母子の会話韮の花
 でで虫と半世紀ぶりに出会いけり
  時の日や名園に増えブルーギル               水の部屋
 梅雨茸のほろりと崩る掘の跡

 雨傘に入れてやりたる花菖蒲                洋光
サッカーが母校の校技雲の峰

 夏至過ぎて一秒かなし日暮どき                有楽
 地政学平和は遠し沖縄忌

 時の日や余生の時をいとほしみ          紫微
 夕映の彩なす大地白夜かな

時の日や老い幾たびの峠越へ              門次郎
 雨蛙人の消へ行く銀座かな
  「消ゆ」ですから「消えゆく」と。
 短夜や和服に雨の日本橋


時の日の水時計見に明日香村        竹雄
 丑三つの時を告げけり時鳥
 十薬の嗅ぐ香なつかし白衣かな
  「嗅ぐ」「香」と重なりますから〈十薬の香のなつかしや〉で。
  「白衣かな」は、医師、ナースの白衣のことか、十薬の花のさまなのか?
  花のことならば、〈香もなつかしや十薬の白十字〉でしょうか。

 夕河岸や引きずって歩く宿の下駄         天花
  〈夕河岸や引きずり歩く宿の下駄〉と。
 夏深む但馬の城下は蕎麦が好き
  城下は蕎麦が好き??〈夏深む但馬城下の蕎麦処〉でしょう。

時の日や 時報は打たぬ 古時計              花子 
父の日や 畦で一服 父似の背
 一人分 粒を数えて 梅漬ける

 時の日のいつかみたゆめおなじ夢              意久子
時の日の小幅に一歩スニーカー

 半夏生 食べるは蛸と チラシ言い            霞倭文 
 ホバリング 壁から壁へ鳩の涼 

 時の日やじじじじと呼ぶ孫が来て        萬坊
時の日や会議ありまた会議なり
江戸切子ビールの泡の藍深し 

時の日や深閑なりし酒の蔵        美原子
   〈時の日や深閑たりし酒の蔵〉
 時の日やはずせし時計壁の空き
汗垂れてますます家事に精を出し
   爽快なる汗!

時の日や定刻信じ待つ電車      満子
芬芬と夜の梔子匂ひけり
 中禅寺湖縦横無尽に岩燕

走り梅雨 小犬合羽を着せられて          老松
時の日や「乙女の寝顔」てふ連山(和歌山県)
   この句、「時の日」でなくてもよろしいかと。
不忍池 青々と蓮だたみ

 飛行船ゆったりと飛ぶ時の日に        みどり
時の日に母の形見の時計巻く
風待てば風来る路地に月見草

時の日や機械仕掛けの音楽隊         弘子
夏つばめ棚田に水の満ち来る
 舟目掛け天竜飛沫梅雨晴れ間

 時の日や五百羅漢の思案顔          薫子
梅雨兆す電光ニュースの赤き文字
置き去りの二輪車濡れし額の花

 子あやめし心の闇ぞ梅雨烈し            悠々
  六音になっても、「子をあやめし」と。
 〈子殺しの心の闇ぞ梅雨烈し〉                             

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