道場主今月の一言

感傷には常に何らかの虚栄がある。」
三木清(哲学者)

銀座俳句道場 道場試合第59回決着!!  

2月の兼題は 「春近し」、あと2題は自由でした

 お詫び
 3月初めに戴いていた句稿を、メールボックスからファイルに移したまま、
 温存しておりました。伏してお詫びまで。
 (このところ、お詫びばかりしているようで、そろそろお役御免を願わねばならないかと反省しきりです)                    (谷子)

  美しい一句でした。「淡海」なればこそのさざなみの繊細さ。
 
    志野の白くぼてりした釉の感触の手触りを感じさせます。
  無季、結構です。ファックスが報せる死、厳しい一句です。
 

【入 選】

 川下る焼玉の船鳥ぐもり      傘汀
   傘汀さん、今回「天」と秀逸入選です。この句は、風景が、「鳥ぐもり」の模糊とした季語の雰囲気に包まれるようで、懐かしさを濃くします。

収集車何もかも載せ松過ぎぬ    竹雄
   今年初めての収集車、正月の気分をきれいさっぱりと乗せて去ったのです。

一句捨てやっぱり拾う梅一輪     方江
   「やっぱり拾う」の愛らしさ。この思いを愛らしいと思うのは、「梅一輪」の働きです。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

春近し駆け出しそうな水の音            花子
あいさつのまずは日脚の伸びしこと 
 ご懐妊突如舞い込む春の風

国会を見学の子等 春近し             有楽
 六本木ヒルズ眺める蕗の薹
雪代の流れを雲が見て通り
  〈雪代の流れを雲が見て過ぎる〉と

通勤の私鉄沿線春近し               竹雄 
吾が主治医チャングムと極め蓬摘む
   私メも嵌った一人です。但し、斯く願うには「皇帝」にならねば…。
   「蓬摘む」がいいですね。

 霾や偏西風は北へ寄れ               傘汀

春近しねじ巻き時計のゆるむ音           吐詩朗
 創を舐め今宵も鳴きに猫の恋
雨ぽつりぽつりぽつりの四温かな

 春近し 耳澄ましいる里の山                       瞳夢 
凍て返る zzとファクスの紙を吐く
   英語俳句というか、とうとう出てきました。
   〈凍て返るzzとファックス神 を吐く〉


侘助や少し掛け軸直しけり
 江戸川の大きく蛇行春近し              とみゐ
 猫の恋携帯電話目覚しに
    中七以降は結構ですから、上五を再考してみてください。
 針供養納戸に眠るミシンかな

春近し鎌倉までの乗車券               方江
 鞍馬路や杉の半身は雪を抱き

春近しダリの時計のくにゃくにゃと          だりあ
   〈春近しダリの時計のぐんにゃりと〉
  背表紙の金字色褪せ春近し
蝋梅やどこまで冷えてゆくのでせう

 厄の子の御札頂く春隣                天花
ひな飾る箱に昔の番地かな
折り紙や角ばってゐる雛の顔

 春近しゆっくり風呂に浸かりおり        山野いぶき
日脚伸ぶ犬ものんびり顔である
   「吾輩は犬である」風ですね。
 ふきのとう小さき希望を託したり
  気後れて豆まきの声抑へをり          のぼる
   「抑へをり」は必要ありません。「気後れの声」だけで解ります。たとえば〈何かしら気後れの声豆を蒔く〉などと。
療養の手立て諭さる春隣
   「手立て諭さる」の「手立て」と「諭さる」を再考。「心諭さる」ならば、まだ伝わりやすいかと。
氷上に胡蝶の舞ふや金メダル
名を問へばおやゆび姫とふチュウリップ      もとこ
    矮性の小さなチュウリップ。可愛いですね。
 探梅や紅指し指も節くれて
使われぬ煙突あたり春近し
 仏壇のそなヘ素甘の春近し            意久子
   「素甘」=「洲浜」。ほろほろした感じが「春」によく似合います。
初メール「きょうはカレーよ」春の宵
    メール記念日の一句。
 二月尽祖母にならひし針仕事

 白梅に下株の話をして通る             龍子
就職内定仔猫抱き上げ告げにけり
洗い干す産着眩しく春隣

 山々の峰重なりて春近し             正己
 行きがけに畑路行かず麦を踏む
   どういう状況か、もう少し整理しましょう。
   「どこかへの行きがけに麦を踏む」のか、「麦踏み」ではなく、
   単に路を逸れて麦畑を通ったのか?

銀色に光りて今朝の猫柳

☆春近し 井戸の漉袋 白くあり          美原子
   「漉袋」とは、ポンプの先に被せてある晒しの袋のことでしょうか?
   「井戸の漉袋」というと、釣瓶が浮びますので、ポンプならば
  〈春近しポンプの白き漉袋〉で、水を含んでぶら下がっている真新しい白い漉袋が見えてきましょう。

木枯らしに絵馬の彩色ひるがえり
  暖あれど レントゲン台 ひやりとす

狛犬の「あ」のほがらかに春近し        みどり
孤に耐えて湯たんぽ抱いて闇を聞く
句は貧しままならぬ日々春遠し
  「貧し」「ままならぬ」「遠し」とマイナスの言葉ばかりが並びまし     
   た。ここまで書いて、居直って「そこから書く」ことで、何かが弾  
   けましょう。


 梢まで茜差す木々春近し             弘子
静寂や沈丁の香に寝られず
松明の木の香熊野に春近し                あゆ
 年越や小さき社も燭点し      
梅早し梢に灘の紺光る 

 天麩羅の苦味ほんのり春近し               満子
ハンガリー舞曲雪は静かに舞ひ初めぬ
 シルエット富士山凛と冬茜 

 半蔵門騒ぎ立つ鳥春近し                 霞倭文     
   六音になっても〈半蔵門に〉と。「切れ」がきっかりとしましょう。

車窓より白馬残雪夕日映え
   〈車窓より白馬残雪夕茜〉と。
 金メダル日本全土に春運ぶ

水に浮くブルージーンズ春隣               萬坊      
   「ブルージーンズ」なので、「浮く」というより「漬く」の方がよいかと。
啓蟄や釜飯の蓋ふつふつと
啓蟄の空見て吾は地下鉄に

春間近か玄関に声明るきこと               さかもとひろし
春間近か青木 繁の海の幸
 春間近か藤十郎の恋実る

托鉢の僧は美男子春隣り                  よしこ
   いささか甘いかとも。?
 ふるさとは寄る家もなし梅薫る
クロッカス花を揃へて一列に

 女性史や芽吹きを誘う夜の雨               美沙
檸檬ひとつ買いに出る町春隣
 切り取れば深海の色春の闇

地下鉄の地下より地上春近し            門次郎
スカートの裾のほつれし余寒かな
ペン先にごみの付きたる春炬燵

春近し 十戸余りの 嫁の郷                姥 懐
  春北斗 となりの星座 ウインクす
春泥の 轍に白き 乾きかな

菜の花が 寄り添う土手をポチと行く           河彦          
一番の 札所に立ちて 祈る春
若かりし 疑獄を追って 冬の闇
   〈若かりし疑獄追いたる冬の闇〉と。

サッカーに跳び出だす児や春近し                   紫微
 紙漉や空海王羲之筆の跡
 句を尋ね梅を訪ねてさすらひぬ

 脈拍の 少し早打つ 春近し               老松
畳紙の 旧姓のまま 花衣       
   〈畳紙に旧姓ありぬ花衣〉と。
天上の鷹の眼と合う、遍路道

水溜り写す大空春近し                 あきのり
 野火放つ狂気の炎を乗せ放つ
春雷や能面の眉細きこと

春どなり敷石洗ってをりにけり              水の部屋
 冬麗の樹間に透くる九輪かな
俳優の手形に重ね手の温し
                
乾坤に水の匂ひて春近し                  洋光
朝ぼらけ春月ほのと残りたる
外つ国に住む子に雛飾りやる

窯出しの陶のぬくもり春近し                 薫子
 空寒し宙を自在に鴉群れ
    
 春近き銀座の茶屋に団子かな                   章司 
 春近き空へ蹴あがり背広脱ぎ
多喜二忌やニュースに雪の降るトリノ
   多喜二の死は昭和八年。トリノオリンピックの雪降る映像と
   思想の為に虐殺された多喜二.繁栄の現代の中での思い。

 春近し君が代流る金の舞い                       悠々
                            

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