道場主今月の一言

感傷には常に何らかの虚栄がある。」
三木清(哲学者)

銀座俳句道場 道場試合第58回決着!!  

1月の兼題は 「初詣」、「雪」、「冬の牡丹」 でした。

 「春光」という言葉が思われる日々となりました。
  何かと落ち着かず、毎日気にかかりながら選評が今になりました。
  お許しの程。
  三月、四月は更にハード、気を引き締めて早めに対応をと思って
  おります。          (谷子)

  美しい一句でした。「冬牡丹」というと、つい紅とか白とか
    詠みたくなるのですが、月下、一気に「銀」と断じたのは手柄でした
 
    雪の降る降誕祭を思いました。「顔のドレミファ」が、大きく開けた
    口のそれぞれを伝えて楽しいですね。
  「影よ光よ」で、寒晴れのよき一日が思われます。
 

【入 選】

 冬牡丹よそゆきの娘ら通り過ぎ    山野いぶき

冬牡丹なので、よそゆきの娘たちの姿、華やか過ぎず、清潔で可憐さが伝わります。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

今の世に戦友なく九段へ初詣             傘汀
落柿舎の蓑笠ほしき寒牡丹

  初詣犬はよろこびけ立てけり             京羅坊
   何を「け立て」たのでしょう?
 雪のなか乙女占う神の池
藁苞にほほえむ冬の牡丹かな

  願いごと欲張り過ぎて初詣              竹雄
   「過ぎて」か「過ぎし」か。
御降の積りに積れ吉事かな
   「…今日降る雪のいや繁(し)け吉事」と、古歌にもあります。
   それを踏まえつつ、「積りに積れ」に、心の昂ぶりがよく伝わります。

 冬牡丹いや葉牡丹を飾りけり

 そのかみも同じ願いを初詣                        瞳夢
ぬくぬくと藁苞にいる冬牡丹
狼の跡一直線雪に消ゆ
    野性味横溢。
 

押され行き 願い八分の 初詣            花子
 降り止まぬ 雪と対峙す 越後人
   〈降り止まぬ雪と対峙の越後人〉と
 初雪や 韓の扉を また開く
   「韓の扉」が、よく解りません。

手水場の筧も青き初詣                正己
 雪の屋根腕の日の丸頼もしき
   「雪の屋根」というと雪降ろしみたいですが、トリノでしょうか?
藁菰の奥に寄り添い寒牡丹
   大きく咲いても、何かひそとした寒牡丹の感じが
   よく伝わります。

 初詣初寅の寺善男女                 景子
雪ン子の帽子そのまま冬牡丹
 これもまあ庭木の上の雪おろし
   これでもまあ「雪おろし」かと…。

 ご近所の小さき神社に初詣           山野いぶき
  〈ご近所の小さき神社初詣〉
雪の中ひとり住まいの母いかに
初詣やさしく雨の降る道を                  章司
 ベランダに一羽雀や雪しきり
海鳥のこゑ切れぎれに冬牡丹

嗽ぐ水の甘さや初詣              洋光
辞するとき父母の家雪霏霏と
   出来れば〈霏々と雪〉と
朱の鳥居くぐりて百歩冬牡丹

 肩越しの小さき祈ぎ事初詣           もとこ
区切られて待たされている初詣
   大きな神社の初詣風景。
 寒牡丹あやうきまでに緋をひろぐ 
   どうも、「冬牡丹」とか「寒牡丹」というと、「あやうきまで」という
   言葉が似つかわしくないのです。いっそ
   〈牡丹(ぼうたん)やあやうきまでの緋をひろぐ〉の方がよろしいでしょう。


学僧のよく剃るつむり初詣                      龍子
       「よく剃るつむり」は「見事なつむり」とか「青きつむりや」とかに。
冬牡丹菰より覗く紅の濃し
   〈濃き紅の菰より覗く冬牡丹〉と。
目測で根雪の菜掘る朝餉かな
    〈このあたり根雪の菜掘る朝かな〉でしょうか。

 初詣餅搗きはやす三味太鼓      吐詩朗   
 遠嶺を舐める狂気の雪しまき
   雪の恐ろしさを書こうとされたのでしょうが、言葉がいささか
   先行しています。「舐める」という遠景と「狂気の雪しまき」という取り巻かれた感覚が少しズレま
す。

 どれどれと人の狐狸の目冬牡丹
   〈どれどれと目を集めたる冬牡丹〉

 男坂登るひとりの初詣              美沙
大雪の国へ母訪う夢幾夜
教え子の巣立つ日迫る冬牡丹

 ポスターの画鋲錆びをり寒牡丹          天花
   寒牡丹園のポスターなのでしょうが、
   これでは寒牡丹のポスターになってしまいます。

初詣お国訛に振り返る
   「ふるさとの訛なつかし…」ですね。
 雪狂う郵便受けにすのこかな
   どういうふうに「すのこ」をかけているのでしょうか?

ぼろぼろのGパン流行る初詣        門次郎
正面に雪の富士この道の好き
  〈この道が好き正面に雪の富士〉と
客待つ間三十分や冬牡丹
  〈客を待つ三十分や冬牡丹〉
             
行終へし僧のきびすや寒牡丹             水の部屋
風鐸のゆるる音かも夜の雪
 町川にべか舟一艘初詣
   
 揚げたての饅頭後で初詣               とみゐ
    「後で」は削りましょう。〈揚げたての饅頭の香や初詣〉。
 静寂に窓明け見れば雪匂ふ
    〈静けさに〉でしょうか。
 藁囲ひ冬の牡丹のコスチューム

雪煙るビルに彩ある人の影               薫子
 世の悪に染まりて溶けし雪の色
    中七まで少々言い過ぎ。
   〈穢れたるこの世に溶けし雪の色〉でしょうか。

 編み藁の温み秘めたる牡丹の芽 

 うぶすなに兵士の手紙貼られをり            意久子
   靖国でしょうか?
叔母逝きて庭にのこれる冬牡丹
雪催小さきカップを掌に囲み
   〈雪催デミタスカップ掌に囲い〉と。

初詣鳥居の上の願い石                 方江
    観察が行き届いています。
雪掻きて子等を迎える教師かな             方江
 石光寺低き藁苞冬牡丹
   
不揃いの雪舞い踊る試験の日              霞倭文
     「不揃い」が、試験の日の不安感をよく伝えます。
新築の介護ホームや冬牡丹
  二人こそ日昇るなか初詣 
    「こそ」が、作者の気合程には、読者に伝わりません。

 空間近か雪原滑走スキーヤー              さかもと ひろし
白い雪白い海鳥関門峡
 雪賞でる情趣何処屋根崩る
    屋根が落ちたのですか?屋根の雪が落ちたのですか?

沈々(しんしん)と雪降り沈(しん)と雪の音        よしこ
     〈深々と雪降りしんと雪の音〉
初詣猫背の君のあとを行く
 山門に立つ若者に雪の積む
     このままでは埋もれてしまいます。
     〈山門に立つ若者に雪吹雪く〉くらいで。


襟足の匂ふ結ひ髪初詣                 あきのり  
 雪の夜やとんとん夜なべの音のして
     このままの情景なのでしょうが、
     「雪」「夜なべ」と季語ですし、「雪の夜」「夜なべ」と
     重なります。
     〈雪の夜やとんとん働く音のして〉と。

不器用に孤独に生きて冬牡丹

初詣来る人みなが戦友に似て (靖国神社)         有楽
切ない一句です。
街の灯は水晶のごと雪凍てぬ(アンカレッジ)
宮前の賑いよそに冬牡丹(鎌倉)

雪一色  穢れも恥も その下に          河彦
  泥道を 足袋気にしつつ 初詣
  「横笛」の 小紋の女 初詣
    何やら艶めいた一句ですが、括弧で表現された「横笛」がどういう意味なのか。
    滝口入道の「横笛」のような女性なのか、「横笛」を吹いているのか、今ひとつ解りにくいです。



  体調の宜しと決めて初詣              のぼる
土鳩来て何ついばむや残り雪


からす二羽はや侍りけり初詣            萬坊
ひと尋(ひろ)と雪の深さ答へけり   
    ひと尋と雪の深さを答へけり

参道の露店も楽し初詣               満子
ふる里に向かふ翼下や富士は雪
 藁菰の中で微笑む冬牡丹

 瞳に笑みや 袖する人の 初詣で                   姥懐
豪雪の 闇深くして 玻璃の悲鳴(こえ)
     出来れば「悲鳴」をルビで「こえ」と読ませるのは避けたいものです。
     〈豪雪の闇の深さや玻璃軋む〉と。

玉砂利を踏む三世代初詣                         紫微
限りなき雪原に立つビーアンビシャス
 姫君の菰被りたり冬牡丹

狛犬の鼻まんまるき初詣               だりあ
許しがたきことの起これり冬牡丹
    中七を受けるのには、「冬牡丹」では不足でしょう。
折鶴の尾の尖れれる春の雪
   〈折鶴の尾の尖りたる春の雪〉

 雪の道グラデーションの轍描き            美原子
 雪積り廃墟に見えし副都心
雪降れり墨する音のやさしさよ

すれ違う顔生真面目な初詣               みどり
 音のなく発熱のまま雪暮れる
   「発熱のまま」が作者自身のことならば、もう少し推敲しましょう。
    〈熱の身に音なく雪の暮れにけり〉    

老婦人声かけ佇む冬牡丹

氏神の篝つつまし初詣                  弘子
 身にひそむ獣眠らせ雪積もる
   きちんと書かれていますが、先行の詩歌あり。
 占いてうなづくをんな冬牡丹
   もう一歩、深く。

こもかぶり一光有りて冬牡丹              老松
立錐となりし参道初詣(伊勢神宮)
明けそむる梢 嫋やか銀世界
   この調子でお書き下さい。

み熊野の闇に篝火初詣                  あゆ
ひらひらと紀の大島に雪が降る  
藁苞の雪より白き寒牡丹     
   句が、よく揃っていました。

 豪雪や老いた人のみ死にゆきて             悠々  
   国の力が行き届いていない弱い土地と、そこでの弱者があぶりだされたような雪害でした
                            

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