道場主今月の一言

「春で朧でご縁日」
(泉鏡花)

銀座俳句道場 道場試合第48回決着!!  

3月の兼題は 「弥生」「春の朝」「彼岸」 でした。

    「NHK俳壇」三年を務めあげました。
    真摯に18万余句に向き合えた時間に感謝しています。
    「俳句道場」の皆様には、ご迷惑をお掛けしましたが、
    我慢強くお待ちくださったこと、深く御礼申し上げます。

                                   (谷子)

 何ということもない一句のように見えますが、静かなドラマが伝わります。
 
 春は別れの時でもあります。そこはかとない新たな出会いも後ろにあるでしょう。「預かる」に思いが籠もります。
 これぞドラマ、として作者は書いてないからこその力です。
 二度は連れ合いを鰥夫にせぬ、という気合は、深い愛情からです。
 

【入 選】

    ネクタイや葱坊主の柄締めにける   清七
楽しい一句でした。「葱坊主」の柄があるかどうかなど関係ないのですが、あったら、楽しいでしょうね。

   焼きたてのクリームパンや春の朝    みどり
春の朝、クリームパンのやさしさが広がります。
 

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

 彼岸明け手術せぬと心決め       美原子
   〈彼岸明け手術はせぬと心決め〉
 鳥の声うつらうつらと春の朝
弥生の陽外へ外へと背を押され

「月光」の君が出撃春の朝               傘汀
彼岸には会ひたき友の二、三人
 いまはもう泪もかれし弥生かな


 庭池に亀の迷い込む春の朝              京羅坊
鍬を持つ野良着の母の弥生かな
子規さんをただ思いだす彼岸かな
   「ただ」がイイですね。

 白粥紫蘇だけ混ぜる春の朝        清七
   〈白粥に〉と
 聖福寺の坊さん彼方此方から来たりける 
   
 雁別れ彼岸の朝の湖畔かな        秋吉景子
 うつむきてクリスマスローズ春の朝
ゆらゆらと弥生の空の飛行船
    「飛行船」は「春・弥生」に似合いますね。

降りつづく弥生の雨や朱雀門       正己
 春の朝大屋根遥か東大寺
彼岸会や尼僧の足袋の新しき
    「新しき」の力。

旅の日の全容見せて弥生富士      瞳夢
 無人駅野花挿したり春の朝
    〈春の朝野花挿したる無人駅〉
七人の孫も來たりて彼岸入り
    楽しい賑やかさが伝わります。

約束の おはぎを三個 彼岸かな             花子
    伸びやかな一句です。「三個」が楽しいですね。
 仏膳に 好みの菜や 彼岸かな
ぽつぽつと 畑に人影 弥生かな
     
 柩車発つ妻子残りし弥生空       とみゐ
 春暁の筑波の山の双峰や
年ごとに彼岸に渡りたき念ひ
    懐かしき人の数も彼岸に増えて…の思いでしょうか。

 春の朝いつもの人犬猫に会う       山野いぶき
 ふるさとの名前消えゆく弥生かな

 弥生空逆転成るやご照覧          陽湖
入院にコロン持て出る春の朝

 ダイエット今年こそはともう弥生      方江
点眼の一滴青き春の朝
   美しい一句です。
思い出は空にかへして春彼岸 

 弥生空鳶の輪ゆるり声こぼす           あゆ
幼名に呼び止める人彼岸寺   
鳴き交す山鳩に明く春の朝 

花売りの姉さん被り彼岸道           竜子
をちこちに電子音して春の朝
少女歌劇妃の御覧じる弥生尽
    よく揃っていました。

 羽衣の伝説偲ぶ弥生空               竹雄
    霞が掛かった弥生の空。
 きゅんと胸しめつけられる春の朝
    ただ何となく、でしょうか?そこらをもう少し。
 厚顔の人蔓延りて彼岸かな

お彼岸や堆朱の卓の色増せり          天花
    親代々の堆朱の卓であることが解ります。
春あした色鉛筆の丸ゐ芯

 利根の野は弥生が匂う醤油の町         有楽
走る人桜田門の春の朝
 父母の影で迎えおれり彼岸雪
   打ち間違えでしょうか?「迎えおれり」がオカシイです。

 春あした白湯に五感を覚ましけり        遥
 彼岸会の銅鑼の一打に背を正す
山鳩の声ひもすがら三月尽

 髪洗ひ替えるエプロンさあ弥生          意久子
春の朝俳句手帖と眠りけり    
ハンバーガー店右に孫ゐる彼岸かな  

 片づける鉢にみどりの弥生月           みどり

 父母おわす彼岸恋しく花を摘む

春の朝瓦斯検針の白い靴             弘子
温かき墓に凭れぬ彼岸寺
すれちがう弥生の闇に女人の香

 地震揺れ歳時記崩るわが弥生           さかもとひろし
   「揺れ」は削りましょう。
 弥生去る玄界人の傷心
郷愁の玄界島の弥生かな 

百日児のほっぺのまろし弥生かな         よし子
   可愛いですね。
 パンプスの音かけ抜けて春の朝

登校児 一直線の 弥生かな          姥懐
 ぽつこりと 黄身に眸のあり 春の朝
    黄身が二つということでしょうか?
 手抜きして 刻を游ばす 入り彼岸
     〈手抜きして刻と遊べり入り彼岸〉    
襁褓(むつき)取れ歩み軽き子弥生かな        紫微
 春の朝寝も覚めやらづフランス語
西方へやがて行く身の彼岸かな

 いつもより立読み永く弥生かな           萬坊
片側の靴下さがす春の朝 
     〈靴下の片方さがす春の朝〉と。
お彼岸の武甲山背に蕎麦すする

 ゆらゆらと鐘の音鈍き彼岸かな         あきのり
 雨降るも黙となりたる春暁かな
    〈雨降りて〉
雨粒も生き生きとして弥生なる

髭剃りの跡あをあをと弥生かな            だりあ
春の朝料理手帳のオムライス
    「オムライス」「オムレツ」は「春」の季語にしてもいいほど。
    殊に「春の朝」なればこそと、言えましょう。 

 洋服のひらひらと行く彼岸過

 こわばった手足のばして春の朝            二穂
 水仙の匂いて雨に弥生尽
   「水仙」は冬の季語。弥生尽に咲いているのは「ラッパ水仙」「黄水仙」
    でしょうか。これらは「春の季語」です。

日の温みありがたくうく彼岸過

  凍結の マンモスを見る 弥生日本          河彦
    〈凍結のマンモスを見る弥生かな〉でよろしいでしょう。
  春の朝 コート脱ぐ日を 決めかねて
地震見舞いに メールを送る 春の朝

  長栄山ふくらむ弥生本門寺  (桜の名所)        もとこ
春暁や救急病院常夜灯
 彼岸会や善男善女の人大書院 
    「人」は必要なし。

病窓の樹樹に弥生の日差しかな             のぼる
廊下ゆく看護婦の声春の朝
 耀変の天目茶碗春彼岸

  卵ほどの靴駈けてくる弥生の野             美沙 
雨垂れの音に色ある春の朝
 亡きひとの窓や彼岸の空渺渺

  富士望む彼岸詣でや父祖の国            洋光
弥生尽国を離れて遙かなる
たまさかの太極拳や春の朝
    「たまさかの」に微笑を誘われます。春の長閑なよろしさ。

農小屋に吊るもの錆びて弥生かな          水の部屋
竹林の一隅ひかる彼岸入
春暁の潜り門より媼かな

  民話聴く子等の真顔の弥生かな           吐詩朗
ゴミ出しを猫の付き合う春の朝
    「ゴミ出しに」と。
猛々しからすの増ゆる彼岸道
    皆、歳と共に丸くなって…。

霊苑の猫に雪降る彼岸かな                      章司
小雨降る弥生や夢二美術館
    よき一句。
  弾みては屋根の雀ら春の朝

  春の朝積もりし雪や囹圄の人             悠々
    なんだか、西部の堤さんを思いました。

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