道場主今月の一言

「葛籠屋の痩(や)せし小僧や夏の月」
(川端茅舎)

銀座俳句道場 道場試合第47回決着!!  

2月の兼題は 「 春寒」「梅」「冴返る」 でした。

 三月でようやく「NHK俳壇」卒業です。三年間、あっと言う間だったような気もしますが、最初の頃のゲストとの写真を眺めていると、やはり随分と「猛々しくなった」とも思います。人は「貫禄が付いた」などとおっしゃいますが。
  月半ばに最後の収録です。これからは春秋のBSなどでお目に掛かることもありましょう。本当にこの道場の皆様にはご迷惑をお掛けしました。ご支援に、心から感謝申し上げます。
  尚四月から「産経俳壇」選者をお引き受け致しました。 

   (谷子)

 

 古い写真であることがすぐに推察される。表の写真の懐かしさを言わず、掠れた「字」に焦点を当てたところが、人恋しさを更に濃く感じさせる。
 
 〈春寒の開(ひら)かぬ飴の瓶の蓋〉と 。
 彳(てき)は左歩、 亍(ちょく)は右歩のことで、少し歩いては佇み、又歩く、という姿。高齢や病後が思われるのは「杖」と「春寒し」の働きから。ゆっくりとした一人の歩みの姿には、哀歓と共に、生きる意志が籠もる。
 

【入 選】

親孝行せし梅園を通り過ぐ             花子  
かつて、親を梅見に連れ出した梅園なのであろう。思い出の辛さが、「通り過ぐ」によって伝わってくる。

 

春寒し男の匂い消えた家      方江
「男の匂い消えた家」等と言うと、何やら忘れられた愛人の家のごとき感がするが、これはご主人を亡くされてからの歳月ということなのであろう。「男の匂い」と書くことによって、作者は哀しみから何歩も先にきていることに気付かれたのではなかろうか。

 

春寒し日の丸一軒の旗日        有楽
「日の丸」を掲げる家が少なくなった。誠に「春寒し」の思い。下五に掛けての畳み掛けがたった一本の日の丸の美しさを強調する。

 

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

梅ひらく卒寿に編むいろは句集     美原子
   いろは句集というのは、初心の者の、ということでしょうか?
   〈梅ひらく卒寿に編めるいろは句集〉
   〈卒寿に編むいろは句集や梅ひらく〉

 早朝にハイヒール響き冴え返る
   〈冴え返る早朝響くハイヒール〉
誰もいぬベンチ並びて春寒し

盆梅の豊後恋しと風哭けり              傘汀
 冴え返る月見てをればよもつ神

 春寒や野良猫町にうづくまる             京羅坊
冴え返るアクアラインの東司かな
   アクアラインですから、トイレなのでしょうが、あえて「東司」と書いたおかしさ。
紅梅や七賢人も遊びをり

 狭席のレストラン庭に竹林の中紅梅1本      清七
   あれもこれも書きたいものばかりでしょうが、俳句は「断念」。
   その中から選び抜きましょう。
   〈紅梅一本レストランの中庭に〉

博多駅通り抜けたる冴え返る 
   〈博多駅通り抜けたり冴え返る〉
 春寒や叩きの花瓶に黄水仙
   「春寒」「黄水仙」共に季語です。
   〈我が手になる叩きの花瓶黄水仙〉などと。


蒼穹へ梅純白にかがやけり            瞳夢
 中東の溶けぬ扉や春寒し
   「溶けぬ扉」というのは如何でしょうか。思いはよく解りますが。「解ける」でしょうか。
黙深く待合室の冴え返る

簡潔な訃の報せあり冴返る           花子
板位牌寺に納めて冴返る 

探梅の高きに立ちて海も見ゆ         竹雄
訃報あり己が齢に冴え返る
 春寒や肥満飽食削いで行け
   誠に!と思いつつ、寒さに対して人間はエネルギーの基戸としてせっせと「食べる」のだと
   思い至りました。

薄紅梅酒まんじゅうを手のひらに             方江
   結構です。美しい一句です。
冴返ることりことりと家事をして
   春と共にご体調回復かと。俳句には、作者のエネルギー状態が表われます。

夫見舞ふ急がば回れ梅の花                意久子
   その通り!気が急く時こそ、四辻では常より注意、時間が掛かっても安全な道を。
   夫を大事と思えばこそ気を付けねばなりません。これは、自身への言い聞かせであり、
    夫大事の一句です。

冴え返る病院南玄関口

盆梅(の)たった一輪咲きにけり                正己
 冴返り筧は朝の音立てて
   〈冴え返る筧は朝の音立てて〉
春寒や水面かすかに揺れにけり

 白梅の季節至るを耐へし色                 とみゐ
冴え返る明日は検査の禁酒かな
春寒し止せばよかった駄洒落かな 
   「春寒」が身にしみますね。

嘴の銀の尖り春寒し                   だりあ
 白梅へ汚れなき風おしよせ来 

みどり児に言葉あふれて梅ふふむ             洋光
欠くるなき北斗七星冴え返る
 春寒を抱きて急ぐ父母の許

 女逝きぬ 梅の便りも 聞かぬまま            河彦
 遠く深く 梅咲く里に 弦の音
友ありて 昔を語る 梅の里
   静かな一句です。

春寒や細く二本の雲生る                 もとこ  
 空しともよむ字青空冴え返る
   どのようなものの字か、もう少し具体的か、文字そのものかを書き込みましょう。
 ひもうせん真白き梅やひざの上
    〈膝に来し梅の花びら緋毛氈〉

訃の電話受けて伝えて梅真白               みどり
冴え返る一人のパセリ刻みけり
 子供らの声はじけとび春寒し

かさこそと鳴る白き骨冴え返る              弘子
春寒や陽はまた陰りまた翳り
   春寒の、日だけは明るく且つ陰る様が思われます。
 梅見坂ゆるりと鯉の深呼吸

 残月に梅開かんと向いおり                有楽
銭洗う水音止みて冴返る 

休耕田人影ひとつ冴返る                 さかもとひろし
歴史閉ず夜行列車よ冴返る
   我が青春の夜行列車です。
廃屋に野良一匹冴返る
   全て、きっかりと書かれています。もう一歩をどう進めるかがこれからの課題でしょう。

 紅梅や今日のはじめの糸を縒る                遥
   「今日のはじめの」というフレーズは、しばしば使われます。そのような指摘を受けることも
   学びの一つと存じます。

梅の下電車ごっこの駅となり
独白の男に隣る春寒し
   何とも言いようの無い思いが伝わってくる一句です。

 老梅に見入りしままの亡父の椅子               陽湖
    作者の中では、この通りの景でしょうが、それを他者に伝える努力を。
    〈老梅に向かい合いたる亡父の椅子〉と。

チェーンソーの薪切る唸り冴え返る
 春寒し豆腐屋の笛近付きぬ
    「豆腐屋の笛」は、いつでもどこでも一句になります。それだけに、沢山ある句  
    の感じを与えてしまいます。


 靴音の気になるうしろ冴えかえる                         あきのり
 紅梅の似合いし空となりにけり
    「似合いし」は過去形になるので、一句がおかしくなります。
   〈紅梅の似合う空とはなりにけり〉でしょうか。

足底に残る硬きもの余寒かな
   〈余寒かな足裏に残る硬きもの〉

梅東風や幼子書きし絵馬ゆれて                のぼる
   〈梅東風に幼の書きし絵馬揺れて〉
 鉄瓶の滾る音立つ冴返る
 春浅し歩道橋の上衿立てて

盆梅のほつほつ防犯連絡所                    水の部屋 
春寒の橋の名前の駅に降り
   〈春寒や橋の名前の駅に降り〉
 冴え返る肩のパットを外しけり

春寒や友からの文待っており              山野いぶき
白梅のひとつふたつとほころびぬ
   「梅一輪一輪ほどのあたたかさ」の原点のようですね。
冴返る直前講座真っ盛り

春寒し赤き実はみな鵯がくい               二穂
   「鵯」だけだと、俳句では秋になっていますが、どうも椿などにくる鵯の印象で、
    春の感じの強い鳥ですね。

 一声の鋭き高音冴え返る
梅林を訪ねてゆきぬ二人ずれ
   〈梅林を訪ねきたりし二人連れ〉

海へ延べ丘の野梅の白さかな                    あゆ
冴返る昨夜は松明駆けし磴    
   火の神事が思われます。どこの行事でしょう。そこらがもう少し入ると活き活きするでしょう。
料峭の試歩退院へ弾ませて
    
園児らの声梅園を抜けにけり             萬坊   
山門の貫木二段冴え返る
 春さむや蒟蒻玉は押し黙り
   「押し黙り」をもう一工夫してみて下さい。
   
この木には梅の紅白遍路鈴                 吐詩朗
   「梅」「遍路」と季語が重なりますが、まだ梅は咲いてないようですね。
   このままで。

 朝刊へ踏石の音冴返る
春寒や塔のとんびの声短か

 健脚もそぞろ歩きて梅見会                    竜子
   いささか説明過多。
火山の島ガス警報の冴え返る
春寒や外廊長き湯治宿

校庭に防災倉庫梅香る                    天花
   結構です。
 梅二月海辺の街行く選挙カー
春寒し医院にピンクのブラインド
   「春寒し」がよく働いています。季語は心理の代用となります。

 シルクロード来し風の声春寒し                美沙  
キャンパスのさよならの谺冴返る
盆栽の梅の香祖父の声忘る
   「忘る」が哀切で、お上手です。

  観梅や絵馬を捧げる父と子と                     紫微
    〈梅白し絵馬を捧げる父と子と〉
冴え返るかけがえの無き友の通夜
春寒や先んじて君西方へ

深爪のうずきながなが春寒し(又はく)              泥臥  
 頤うめた国家試験に梅一輪
 冴えわたる凍裂のひびきダルマの火     
    「冴えわたる」と「冴え返る」は異なります。
    
街の灯の果てに山脈冴返る                       章司
 春寒や母にスキーの子のメール
    子は「春スキー」ですね。
紅梅や藤兵衛老の屋敷跡

首長選 白手袋の 冴え返る            姥懐
春寒や まとめしまゝの 百の鉢
   「百の鉢」がスゴイです。
 おちこちの 梅の便りは 新聞で

 春寒し伐られし櫻(はな)へ酒そそぐ       悠々
   あちこちで桜の木が伐られています。私の住む小高い処は
   マンション山と化して、(その内の一軒なので、文句は言えないのですが)楽しみにしていた
       6箇所の桜の木が今や2箇所になりました。新たな定点観測地を探さねばなりません。 

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