道場主今月の一言

「春風や闘志いだきて丘に立つ 」
(高浜虚子)

銀座俳句道場 道場試合第45回決着!!  

12月の兼題は 「南天の実」「冬草」「行く年」 で した。

 よきお年をむかえられたことと存じます。今年もゆっくりしっかり歩いてまいりましょう。皆様の作品、ぐんと手ごたえを感じるようになったこと、嬉しいかぎりです。
兼題の「行く年」「冬草」「南天の実」の三題とも、今まで作句していないことに気付きました。「花南天」では沢山あることにも気付きました。この選を終えたら、ひそかに兼題に挑戦致しましょう。

   (谷子)

 

 「南天の実」の句は、今回面白いものが多かったです。いわゆる「切れ」が上手く働き、伸びやかな世界が広がりました。この句はその代表格と言えます。
 鶏が放し飼いになっているのか、飼ってる鶏が囲いから抜け出たのか。どちらにしても、郊外でしょうか、伸びやかな幼稚園。幼い子たちの賑やかな声が聞こえそうです。
 走っていた三日間の間の冬の草、三日坊主に終わった後の冬の草。「冬の草」から眺められているもぞもぞとした思いが伝わってきます。

【入 選】

野暮用を思い出しけり実南天   傘汀
ふいに思い出した野暮用、南天の実の赤さの強さが印象的。

冬草や芭蕉の句碑の読み難く   のぼる
古びた芭蕉句碑、静寂の景。

実南天すこし明るくなった空   二穂
伸びやかな一句。
行く年やざんぶざんぶとポンプ井戸  遥
「行く年」としては誠に元気な一句。よい年が来そうです。
 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

国憂ふ泪のごとし竜の玉          傘汀        
   まことに「無慚無限」の一年でした。

侘助の咲きて庭の手入れかな        清七
   〈侘助の開きて庭の手入れかな〉
 床の間の掛軸鶏頭の赤実南天に似たる
 傘寿の思い出膨らで行く去年今年
   〈傘寿なり思い出膨らむ去年今年〉

実南天竹座のありしむかしかな      京羅坊
   「竹座」――芝居小屋と解しましたが…。   
 階や南天の実の雪の寺
実南天玉とりあそび母と猫
   楽しい一句。縁側の日溜りでしょうか。

 赤い鳥 実南天をばこぼしけり        瞳夢
   「をば」が、いささか重い。
 冬草や振り まわす子の影踏みぬ
  何を「振りまわす」のか、「影踏む」のは子か作者か?
  冬草が、踏みしだく子の影を濃く刻んでいるということでしょうか。

行く年や光の予兆ほのかにも

実南天今年も鳥に喰われけり                正己
   今年は殊に、と聞きました。ほんとに見事に食べつくしますね。
冬草を避けつつ漕ぎて車椅子
行く年や点滴今朝もゆっくりと
   点滴の一滴一滴に、行く年の一刻一刻を感じ取っているのです。

実南天豪勢に活け備前焼                  洋光
   備前焼の肌に、実南天がよく似合います。
 行く年やをのこもすなる厨ごと
   あまり感心しません。

 街路樹の根方冬草夫見舞う                 意久子
   〈街路樹の根方の冬草夫見舞う〉
行年や一人離れて三世代 
   寂しさを伝えます。

古希という閑けさに在り実南天               遥
あてどなく歩く武蔵野冬青草
   「冬青草」が、武蔵野の豊かさを伝えます。

名ばかりになりし武蔵野実南天               有楽
   〈名ばかりとなりし武蔵野実南天〉
 冬草や地球温暖ふさふさと
   「ふさふさ」というのは、もう少し考えた方がよろしいでしょう。
 日米の新佐渡情話年暮れる
   曽我さんとジェンキンスさんのことでしょうか?  
   
 行く年や行間ゆったり書く日記               方江
 部屋明し遊びに描きし南天の実
    〈部屋明し遊びに描きし実南天〉

 赤き鳥南天の実を食みしとか                         とみゐ
 懐かしき歌手の出演冬の草
   「冬の草」だと、屋外でのなにやら侘しい感じになりますね。
   「冬薔薇」などだと、また違ってきましょう。  

年歩む何処まで行ける六十路かな
   頑張って下さい。六十路ごときで、「何処まで行ける」は早すぎましょう。

 絵手紙の色の滲みや冬の草                 天花
 行く年や絵筆にたっぷり金の色
冬草青し免許証の更新日
   〈冬草青し運転免許更新日〉と。

福呼ぶと派手に熟れたる実南天               吐詩朗
 冬草の青さ大地にへばりつく
   「へばりつく」は、再考必要でしょう。沢山の言葉の中から探しましょう。
 未解決世に満つるまま年歩む
   本当に!未解決を次の年の力に、と願うしかないのでしょうか。

 その青の寄宿舎跡や冬の草                あゆ
災いの年をたわわに実南天                 
 年惜しむ憂き世離れて田の煙 

 身の丈を越えて見えずや実南天               もとこ
 行く年やまた来る年のなに変ろ
年の末任せて立たん動く道 
  〈行く年や任せて立たん動く道〉よき一句です。

余震なほ殊に紅濃き実南天                水の部屋 
   心震わせながら、案じている思いが伝わります。
逝く年の汽笛に応ふ汽笛かな
 冬草や創刊号に加はりて 

試歩の杖しっかり挿して冬の草                           亀山竜子
実南天に鳥を集める留守の庭
予知能力啓発されず年送る
   「年送る」とか「行く年」というと、どうしても懐旧的になりがちですが、なかなか楽しい一句。

南天の実を二つ付け兎の眼                           紫微
 飛石と蹲避くる冬の草
 行く年や災の年にも無事過ぎし
   「年」「年」と重なります。〈「災」一字に表わす年の行きつあり〉

 主よと歌いはじめたる南天の実              だりあ
  中七までは誠に結構ですが、何やら突然に南天の実が出現する感じです。
  この下五を再考されれば、よき句になるでしょう。

口外をしてはならじと実南天
冬草の雨の匂ひを放ちたり

冬の草海鳴りを聞く椅子ひとつ               美沙 
 行く年の弥撒の鐘の音天は遠い
 南天の実と空磨いて朝の眼鏡
   〈朝の眼鏡磨いて南天の実と青空〉でしょうか。

ジャンボ籤買ひそびれけり実南天             のぼる
 家伝てふ鰤の照焼大晦日

 亡姑の里疎遠の門の実南天                陽湖
   〈疎遠の門の〉がナンテン。〈亡姑の里すでに疎遠や実南天〉
 安静のガラスは厚し冬の草
定位置に皆の顔見て行く年や

 人形の窓越し見とれる実南天               さかもとひろし
行く年や貨物列車の疾く過ぎぬ
往ぬ女を送りて赤き実南天
   ドラマを感じさせます。

折々の 風をもらひて 実南天               姥懐
   葉は揺れやすく、実も折々に。たわわな実の感がよく伝わります。
冬青き 草にそそらる 日がなかな
 悪しきこと より善き事多く 年惜しむ

頬赤き少女帰るや南天の実                         あきのり 
   〈頬赤き少女帰るや実南天〉と。
からからと風の鳴る音冬の草
 怒涛の輪廻の中や年果てる


冬草や下校途中の子らの声               山野いぶき
 行く年やバッハを聞いて過ごしおり
 実南天実家も時の移りけり
   〈実家にも時の移ろい実南天〉

行く年や 銀座の空に 風船ひとつ                河彦
   「風船」は春の季語ですが、近年、通季になっています。
 行く年や 災いの果てに 海怒る
馬を追う 夢ささやかに 冬の芝

実南天卒寿の母と撮りにけり                                章司
   めでたき赤さ。
冬草や戀といふ字にある情(こころ)
 行く年の濠の白鳥飛行船
   白鳥が飛行船のようだ、というのではなく、「飛行船」はその濠の上に浮かんでいるのでしょうが、どうも、材料が多い感じです。〈行く年の濠のうえなる飛行船〉。尚、「白鳥」も冬の季語ですが、「行く年」という季語は冬の季語でも、歳晩の、短い時間帯ですから、重なってもかまいません。  

 次々と傷あと残る年は逝く                   二穂
冬草や這いつくばってなお生きる

南天をついばみしとり赤くなれ                 秋吉景子
   「なれ」の成功。   
 へばりつく冬草のあり道の辺に
   「へばりつく」は再考を。
 行く年に新しき目は入りけり
   「白内障手術」?

哀しみの白実南天りんさん逝く                 みどり
   石垣りんさんの死は、本当に残念でした。
 路地裏の青き冬草輝きて
 行く年は泣きっ面にハチさようなら

路地裏に銭湯の匂い実南天                    弘子
 恋愛は本の中のみ冬の草
 行く年や架設住宅の窓明かり
   「仮設住宅」?

冬草苛なまれし身の置き所                    美原子
   〈苛まれし身の置き所冬の草〉と。
 恋人が友人にかわり年流る
   それも又よきかな、ですね。「年流る」を別の季語にすると、もっと内容が生き生きと動いてくるでしょう。
 国越えて祈る想いや実南天

 尋ねれば南天の実のキュートかな                竹雄
冬草の引くには惜しき萌黄色  
 行く年や地球の異変日本にも

 うつわ展 白布の上に 実南天                 花子
冬草や 気骨は孫に 受け継がれ
 行く年や 川の流れを 鼻唄で
 
背を丸め猫くぐり来る実南天                   萬坊 
 くす玉の紙吹雪のせ冬の草
 行く年や古電球の頑として
   〈行く年や古電球の頑なに〉「頑と」どうなのか?を。
               
 行く年や我慢抱きしめ溶かし行く                 悠々

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